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岩手県のスーパーで“驚きの光景”……「地元ではこれが普通」、なんでこんなに多いの? その背景に、社長の「アイデア」と「先見の明」

宮前 晶子 宮前 晶子

昨今、全国のスーパーで増加しているパウチヨーグルト……各メーカーが参入していますが、岩手県内スーパーでの充実度は群を抜いている模様。

なぜなのか? その理由を探るために岩手のメーカーとスーパーを取材しました。

「アルミパウチ入りヨーグルトが勢揃いする光景は、岩手県外ではまず見られない岩手県民の『特権』だ。県外だと1~2割は高いし、『岩泉はあるけど湯田はない』といった具合に、店舗ごとにメーカーの縄張り争いがあるのが普通だ。こんな風に好きな銘柄を自由に選べる環境は、ものすごく贅沢なことなのだ」

ロバとともに行商する太郎丸さん(@taromar_u)が、SNSで投稿したところ賛同する声が続出しました。

「地元民では、そんなすごいことに気がつかない」「こんなに沢山のメーカーのアルミパウチ入りのヨーグルトをみることは、私の住む地域のスーパーではないです。ヨーグルトにも地域性があるのですね」などの反応があり、岩手県内のスーパーにはパウチヨーグルトが充実していることがわかります。

なぜ岩手県なのか? なぜこんなにも種類が豊富なのか? 長年の謎には、理由がありました。

謎1:なぜパウチにヨーグルトを入れたのか

カップやプラスチックケースに入ったものが一般的だったヨーグルト。ここ数年で増えた印象の大容量パウチタイプが、登場したのは2008年……なんと約18年前です。

筆者は2018年に、岩手県のスーパーマーケットに立ち寄った際、大容量のパウチヨーグルトが乳製品コーナーに並んでいるのを見て驚いたのですが、その頃には岩手ではすでにおなじみの存在だったということになります。

バリエーション豊富な陳列となるきっかけは、後に岩手県出身の大谷翔平選手がインタビューで「世界一おいしい」と紹介した「岩泉ヨーグルト」です。

しかし、最初からパウチに充填することを目指していたわけではなかったそう。岩手県下閉伊郡岩泉町で「岩泉ヨーグルト」を製造販売する岩泉ホールディングスの代表取締役・山下欽也さんに取材しました。

「地元・岩手県のホテルに営業で訪れた際に、ホテルのスタッフから“朝食ビュッフェで提供するヨーグルトは市販品を買って、ボウルに移しています”と聞きまして、それは手間だなぁ、と思いました。忙しい朝食準備をスムーズにするためには、大容量の容器に入った業務用ヨーグルトを作ればいいのでは?と考えたのです」

ホームセンターへ容器を探しに行ったところ、目に止まったのがアルミパウチ。

「ホームセンターに行くまで、ヨーグルトをパウチに充填しよう、なんて発想はまったくありませんでした。でも、これなら大容量になるし、容器が空になってもコンパクトです。コレだ!と思いました。

岩泉のパウチヨーグルト=もっちり食感と言われることが多いのですが、狙って作ったわけではなく、偶然の産物。アルミのパウチは、光や空気を通さず、素材の鮮度を保ったまま加工できることに加えて、低温でゆっくり時間をかけて発酵させていることで、もっちりとした食感やヨーグルトの風味が深まっていくということがわかりました」

謎2:スーパーに置けないと言われたのに…

味、食感に自信を持ち、商品化にこぎつけたパウチヨーグルトですが、デビュー時はネガティブな声がほとんどでした。

社内からは「業務用としてホテルに出荷するしかないのでは」、営業に訪れたスーパーなどでは「大きいからヨーグルトコーナーの陳列棚に置けない」「2000gなんて大容量すぎる。誰が買うの?」「このパッケージは洗剤と間違えられるかもしれない」と担当者から酷評されたことも。

発売当初、「岩泉ヨーグルト加糖2000g」は1200円(原材料費高騰などにより現在は1720円、いずれも税込価格。販売店舗により取り扱い商品や価格は異なる場合あり)。1000円超えの価格と、前代未聞の大きさがマイナス要因としてとらえられたのです。

しかし、スーパーで試食会を催すと、試食したお客たちが「おいしい」「大容量でも割高感がない。購入頻度が減ることで買い物の手間が減って嬉しい」と絶賛。

商品を購入する人、次の試食会でリピート購入する人など口コミで人気が拡大していきました。ホテルの朝食ビュッフェで食べた人が、岩泉ヨーグルトを取り扱うスーパーに足を運ぶこともあったそうです。

パウチヨーグルトの利点と人気が広まり、県内の乳業メーカーからもパウチヨーグルトが発売されるようになりました。

岩手県を中心に宮城県、青森県含め58店舗を展開するスーパーマーケットチェーン「ベルジョイス」では、早い時期から岩泉ヨーグルトを取り扱い。現在は、複数メーカーを取り扱っており、大型店では10~12種類、中・小型店では6~8種類ほどのパウチヨーグルトが並びます。

「もともと人気はありましたが、テレビ放映や有名野球選手のメディアでの発言以降、さらに人気が高まったと感じております。 “パウチヨーグルトはもっちりとして、ほかのヨーグルトより美味しい。

一度食べたら普通のヨーグルトには戻れない”とおっしゃるお客様もいらっしゃいます。岩手県外に住んでいる、息子さん・娘さん家族などに送るために購入するというお客様も多くいらっしゃいます」(ベルジョイス広報担当)

謎3:もったいない!? なぜ特許を取らなかったのか

人気の高まりとともに出てきたのが特許の取得を奨める声。しかし、岩泉ホールディングスは取得することはありませんでした。

「弊社は、そんなに大きな会社ではないので製造量には限度があります。特許を取って、弊社が製造を独占するよりもパウチヨーグルトを作るメーカーが増えて、複数商品がスーパーの棚に並ぶ方がパウチヨーグルトの認知度が高まるはず。

そう思ったので、岩手県内の同業他社からの問い合わせがあれば、協力を惜しみませんでした」(岩泉ホールディングス山下さん、以下同)。

今では岩手県内はもとより全国的に広がりを見せているパウチヨーグルトですが、開発当初は充填するための機械もありませんでした。

「何しろ、見たことのないパッケージの商品だったから、機械もないわけです。最初のうちは、完成したヨーグルトのパウチへの充填は工場のスタッフが手詰めで行っていました」

充填マシンを作ってもらえる会社を探し、たどり着いたのは横浜の町工場。

「ヨーグルトをパウチに充填する機械は作ったことがないけど、やってみよう!と言ってくださって、共同で開発したのが第一号機です」

同業他社からの相談や問い合わせで最も多かったものがパウチへの充填方法。開発した充填専用の第一号機の見学にも応じ、パウチヨーグルト製造の拡大にリーダーシップを発揮しました。

同業他社への協力にも積極的だったのは、同社の生産量が限定されていることに加え、岩手・東北の酪農事情にもあると言います。

「岩手県は酪農が盛んな地域。小さな乳業メーカーがたくさんあります。地域に根付いて頑張ってきた企業や生産者が多く、みなさま厳しい中で生産して、営業しています。全国区のメーカーと競合することも多く、厳しい局面もたくさん見てきました。

そのような事情を知っているので、岩手県内の酪農や地域の魅力を発信していきたい。地域の企業だけではなくて、生産者にも光を当てないとダメなんですよ。そのひとつとしてあるのがパウチヨーグルトです。自分たちの会社だけではなく、岩手県の酪農を含めた産業が幸せにならなくちゃ、と思います」

◇ ◇

岩手の小さな会社が生み出したアイデア。その魅力が広まり現在の人気につながりました。これも、あえて特許を取らなかったからこそ。おかげで、現在は52商品にも増えて、前年比(2025年度)約134%。3年前(2022年)と比べると、約229%(約2.3倍)【出典:インテージ(2025年10月~2026年3月)】と、急速に拡大しています。

【岩泉ホールディングス株式会社 関連情報】
■X  @iwaizumilk
■Instagram  @iwaizumi_holdings_official
■公式サイト https://company.iwaizumilk.co.jp 

■株式会社ベルジョイス https://www.beljois.co.jp

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