過去に病死や自死、孤独死などが発生した、いわゆる「事故物件(告知事項あり物件)」は、多くの人が「売れないのではないか」「大幅に値下がりするのでは」と強い不安を抱きがちだ。
しかし、事故物件に特化した不動産再生サービス「ふっかつ不動産」を運営する株式会社EIZIN(神戸市)の代表取締役・仁木英寛氏は「事故物件だからといって、諦める必要はありません」と語る。過去に「告知事項あり」の物件を購入したある家族のエピソードをもとに、事故物件を「売れる物件」へ再生させた事例を聞いた。
敷地内で自死があった家を気にせず購入したが…
神戸市内に住むある家族は、10年ほど前に「告知事項あり」、すなわち「事故物件」とされる戸建て物件を購入した。不動産会社からは「敷地内で自死がありました」と聞いたが、立地や建物の質が良かったため、気にせず購入を決めたという。
それから10年間、何の問題もなく平穏な日々を過ごしてきた。しかし、ライフステージの変化に伴い、住み替えのために売却を検討し始めたとき、ふと「売れるだろうか」という不安が頭をよぎった。自分は何も気にせず購入したが、売るとなると、やはり不利な条件になるかもしれない。
買い手がつかないか、大幅に買い叩かれるのではないかという思いに駆られ、ふっかつ不動産に相談が寄せられた。
「ご自身が納得して住まわれていた素晴らしいお住まいでも、いざ売却するとなると『世間の目が気になる』『どう説明すればいいのかわからない』と、当事者だからこそ焦ってしまわれるケースが多いです。私たちは、その不安をひとつひとつ丁寧に解いていくことから始めました」
事故物件を「売れる物件」にするための3ステップ
その物件を売却するため、仁木氏は3つのステップを踏んで「売れる物件」へと再生した。
第1段階は、物件の魅力をアピールするためのハウスクリーニングを行う。
事故物件という心理的瑕疵を払拭するためには、内覧時に「ここなら気持ちよく暮らせそうだ」と直感的に思ってもらうことが何より重要となる。そこで、物件全体の魅力を最大限に引き出すため、プロによって徹底的にハウスクリーニングが施された。
隅々まで清掃を行って清潔感を演出し、内覧時に受ける視覚的な印象を劇的に向上させた。
第2段階は、荷物の撤去と整理だ。
10年暮らした家の中には、大量の家財道具や荷物が残されていることが多い。これらが放置されたままでは、見た目に良くないのはもちろん、せっかく明るい間取りや広さのある部屋の様子が伝わりにくい。
仁木氏は売主の引っ越しスケジュールや心理的な負担に配慮しながら、家の中に残された荷物の撤去と整理をサポート。すっきりと片付いた空間をつくることで、買い手が新しい暮らしを具体的にイメージしやすい環境を整えた。
第3段階は、いよいよ事故物件専門のノウハウを生かした売却活動に移る。
仁木氏はこれまでに培った独自の販売ノウハウを活用。単に「告知事項がある」というマイナス面を伝えるだけではなく、購入から10年間にわたり前オーナーが快適に暮らしてきた「事実」と併せて、立地、日当たり、建物の頑丈さといった「物件本来のポテンシャル」を買い手へ丁寧にアピールしたという。こうして適切な情報開示と誠実な交渉を重ねた結果、告知事項があることを気にしない新たな購入希望者とのマッチングに成功した。
心理的瑕疵=いわゆる事故物件は「心の引っかかり」に過ぎない
そもそも「事故物件」という言葉には、はっきりした定義はない。業界で一般に「心理的瑕疵」と呼ばれるが、これは物理的な欠陥ではなく、住む人が抱く「嫌だな」「気持ち悪いな」という主観的な抵抗感に過ぎないのだ。
「心理的瑕疵は、いわば『心の引っかかり』です。しかも、何が引っかかりのポイントになるかは、人それぞれ異なります。たとえ殺人があった部屋でも平気な方もいれば、軽微な事件でも過去に何かがあっただけでも嫌だと感じる方もおられます。だからこそ、イメージや先入観だけで判断せず、正しい知識を整理することが大事なのです」
客観的な事実を正しく開示し、その価値を必要としている買い手へ適切に繋ぐ。このプロセスが適切に行われたら、かつて告知事項があった家でも、次の世代へと引き継ぐことができるのだ。