子どもたちが安心して学び、成長するには、先生自身が心身ともに安定した状態で子どもと向き合えることが欠かせません。しかし 文部科学省の調査では、精神疾患で休職した公立学校の教員は2023年度に7119人と過去最多を記録し、翌年度も7087人と高止まりが続いています。
そうした中、横浜市教育委員会は2026年度(令和8年度)から、新人教員を一人で担任にしない「横浜型スタートアップモデル」をモデル校4校でスタートさせました。なぜ、この取組を始めたのか、横浜市教育委員会に話を聞きました。
横浜市ではこれまでも、学年全体をチームで運営する「チーム学年経営(教科分担制)」を進め、一人で抱え込まない学校づくりに取り組んできました。2026年度からはこれを土台に、授業だけでなく朝の会や給食の時間などの学級担任業務も複数の教員で担当する「チーム担任制」を、市内337校すべての小学校で展開。第一の目的は、児童の学力向上と心の安定です。子どもが複数の担任と関わりながら、安心して学校生活を送れるようにする「子どものための取組」と位置付けられています。
そのチーム担任制を、新人教員の育成に生かしたのが「横浜型スタートアップモデル」です。モデル校4校では、新人教員が4月に着任してすぐに一人で担任を務めるのではなく、学年全体のマネジメントを行うチーム・マネジャーと共に、学級経営(クラスづくり)を学びながら成長していきます。
背景にあるのは、新人教員なら誰しも抱えがちな不安や悩みです。横浜市では従来からチームで見守る体制がありましたが、それを仕組みとすることで支援の環境をさらに整え、新人教員が自信を持って業務に取り組めるようにする狙いがあります。
「見て、やって、振り返る」で学ぶ
現在、モデル校4校では各校1人の新人教員が対象となり、チームの中で育成されています。
例えば横浜市立豊岡小学校では、最初の1、2カ月間はチーム・マネジャーが同じ教室に入り、授業や生活指導を実際に見せながら、少しずつ役割を引き継いでいます。
横浜市立港北小学校では、係活動や給食指導、教材づくり、パソコン操作まで、日々の実務を一つひとつ共有しながらサポート。単に「困ったら相談してください」ではなく、「まず見せる」「一緒にやる」「振り返る」という流れでそばに付いて支えることが、このモデルの特徴です。
教育委員会がモデル校の新人教員に話を聞いたところ、安心感につながっているという声が届きました。
ある新人教員は、授業中に子どもたちの反応が得られず進め方に迷った際、後方で見守っていたチーム・マネジャーが子どもへの声掛けの仕方をさりげなく示してくれ、その場で授業を立て直すことができたといいます。
初めての保護者面談を経験した新人教員は、同席したチーム・マネジャーの助言を受けながら対応できたと話します。ほかにも「口頭で説明されるだけではなく、実際にやって見せてもらえるので理解しやすい」「プリント作成やパソコン操作など、『これを聞いてもいいのかな』と思うようなことでも気軽に相談できる」といった声が寄せられています。
支えるのは「チームで育てる学校文化」
こうしたきめ細かなサポートを可能にしているのが、市全体に広がるチーム担任制の土台です。新人教員だけでなく、どの学級も複数の教員で担任業務を分担する仕組みが整っているため、急な欠員や育児短時間勤務など学校ごとの事情にも柔軟に対応できます。
教育委員会は今回のモデルを「新人育成の新しい標準モデル」と位置付け、検証結果を踏まえて改善・拡充を進める考えです。担当者はこう話します。
「目指しているのは、子どもが安心して学べる学校、教員が孤立せず成長できる環境、そして持続可能で魅力ある教職です。チームで育てる学校文化を、さらに定着させていきたいと考えています」
「新人教員を一人にしない」ことを前提にした新たな育成モデル。子どもたちが安心して学べる学校づくりを土台に、新人教員の成長も支える一歩として、今後の広がりが注目されます。