「60代の母が突然、膠原(こうげん)病を発症しました。皮膚筋炎や間質性肺炎で数カ月の長期入院をしましたが、今ではおおよそ状態は安定しています。それでも、慢性疾患である膠原病は、定期通院・服薬が欠かせません。また、数カ月の長期入院は保険適用とはいえ、長期入院に伴う医療費や検査費用がかさみ、結局数十万円という多額の治療費が請求されました。今後も検査入院等の可能性もあるようですし、母も毎回このような金額は払えません。どうしたらよいか、いつも悩んでいます」
そう語るのは、30代女性の豊中かなえさん(仮名)です。豊中さんは、2歳のお子さんを抱えながら、夫と同じくフルタイムで勤務しています。1年前、突然お母さんが息苦しさを訴え意識が朦朧とし始めました。あわててかかりつけの病院にかかっても原因不明でしたが、最終的に大学病院で検査入院ののち、膠原病と診断されました。
ご両親自身の貯蓄もあるとはいえ、数カ月の入院費用は数十万にも上りました。豊中さんが資金援助しようとしても、豊中さんのお子さんのためを思って、お母さんは受け取らなかったようです。
このように、膠原病などの慢性疾患は、定期通院・服薬、時に検査入院も必要となるため、多額の医療費を必要とするケースは珍しくありません。もし、身近な家族が慢性疾患になってしまったら、今後長く続くであろう医療費の負担を削減できる方法はあるのでしょうか。
高額療養費制度とは?
高額療養費制度とは、1カ月(1日〜月末)の保険適用医療費が自己負担上限額を超えた場合、その差額が加入する健康保険から払い戻される制度です。
なお、上限額は、年齢や所得によって異なる点に注意が必要です。また、入院時の食費負担や差額ベッド代などはこの制度の適用外となり、含まれません。
豊中さんはそれを聞いて、少しほっとした表情を見せるとともに「母の場合、大体どのくらい差額が戻ってくるのでしょうか?」と尋ねました。
実は高額療養費制度は、年齢や所得水準によって細かく分類されており、その区分によって払い戻される金額が異なります。
高額療養費制度の自己負担限度額
前述の通り、毎月の上限額は、年齢(「70歳以上」か「70歳未満」か)および所得水準によって細かく区分されています。
豊中さんのお母さんの場合、70歳未満で収入は老齢年金のみで、かつ所得区分は年収約370万円未満の区分でしたので、毎月の医療費負担の上限額は、5万7600円となります。
つまり、豊中さんのお母さんの場合、医療費負担が5万7600円を超えた場合は、その差額が戻ってくるという仕組みです。
窓口での支払を限度額までに抑える方法
高額療養費制度を利用する方法は、主に以下の3通りです。
①マイナンバーカード(マイナ保険証)を使う場合
医療機関の窓口に「マイナ受付」ができる機械(顔認証付きカードリーダー)が設置されていれば、事前の書類申請は一切不要です。
オンライン資格確認を導入している医療機関などであれば、病院の窓口(または自動受付機)にあるカードリーダーにマイナンバーカードを置き、オンライン資格確認によって限度額情報が医療機関等へ共有され、窓口での支払いが自動的に限度額までに抑えられます。
ただし、月をまたぐ入院や世帯合算・多数回該当などのケースでは、後日改めて申請が必要になる場合があります。
②紙の限度額適用認定証を発行してもらう場合
マイナ保険証を持っていない場合や、転居・転職直後などでシステムが対応していない場合は、自分が加入している公的医療保険の窓口に申請して、紙のカード(認定証)を発行してもらう必要があります。
資格確認書や「資格情報のお知らせ」、マイナポータルなどで加入している医療保険を確認し、各医療保険のホームページから「限度額適用認定申請書」をダウンロードして印刷するか、国民健康保険の場合は市区町村の窓口で用紙をもらいます。
記入した申請書を、それぞれの窓口へ郵送、もしくは直接持参します。
紙の認定証が届いたら、必ず退院の精算(窓口での支払い)を行う前に、病院の受付へ提示しましょう。支払いが終わった後から提示しても、その月の会計には適用できなくなってしまい、後日申請して払い戻しを受ける形になります。
③後日払い戻しを受ける場合
マイナ保険証も紙の認定証も使わなかった場合、または使えなかった場合でも、後から申請すれば払い戻しを受けられます。
いったん窓口で限度額を超える金額を支払った後、加入している健康保険(国民健康保険、協会けんぽ、組合健保など)に「高額療養費支給申請書」を提出します。申請期限は、診療月の翌月1日から2年以内です。
多くの場合、加入している健康保険から「高額療養費の支給対象になりました」という通知が届きますので、その案内に従って申請手続きを行ってください。
世帯合算・多数回該当で、さらに負担が下がる仕組み
さらに負担を軽減できるかもしれないキーワードが、「世帯合算」と「多数回該当」です。
◆世帯合算
同一世帯で複数人が医療費を負担している場合、それぞれの自己負担額を合算して限度額を超えた分について、払い戻しを受けられる「世帯合算」という仕組みがあります。
たとえば、豊中さんのお母さんとお父さんが、それぞれ医療費を負担している場合、2人の自己負担額を合算して限度額を超えた分が、払い戻しの対象となります。世帯合算を利用する場合は、加入している健康保険に別途申請が必要です。
◆多数回該当
高額療養費制度における多数回該当とは、過去12カ月以内に3回以上、上限額に達した場合は4回目から「多数回」該当となり、上限額が下がる仕組みです。年齢や所得(年収)の区分によって、4回目からの上限額が決まっています。
先述の通り、豊中さんのお母さんの場合、70歳未満で収入は老齢年金のみでしたので、所得区分は年収約370万円まで区分(エ)にあたります。すなわち毎月の医療費負担の上限額は、5万7600円となります。
豊中さんのお母さんが多数回該当が適用された場合には、過去12カ月以内に3回以上、上限額に達したときに4回目からは、上限額が5万7600円から4万4400円に下がるという仕組みとなります。
なお、こちらは現行制度の内容です。2026年8月からは制度の見直しが行われますので、最新情報は厚生労働省のホームページなどをご確認ください。
高額療養費制度を知る・使う・応用する
「母の治療は今後も長く続きそうですし、多数回該当の仕組みも本当に助かります。まずは母がマイナ保険証を使用しているか確認しなければなりませんね。高額療養費制度を活用しながら、母の病気とも気長に付き合っていきたいです」
そう話しながら、豊中さんはさっそく、お母さんに連絡をしていました。
豊中さんのお母さんのように、ある日突然、慢性疾患や障害を抱えることになる例は少なくありません。それでも、高額療養費制度を知っていれば、医療費についての負担を少しは軽減できるはずです。
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。