岡山県倉敷市のJR倉敷駅から徒歩5分のところにあるレコードショップ「Garden of Delight(ガーデンオブディライト)」には、代表の藤井祐伎さんの飼い猫で、ともにハチワレの「みう」(メス、推定16歳)、「めぐ」(メス、12歳)親子が、レコードを探すお客さんを出迎えている。不慮の事故で愛猫を突然亡くし、もう猫は飼わないと決めていたが、みうとめぐ親子に出会ったことで次第に「悲しみが溶けていった」という。いまは2匹が「元気の源」という藤井さん。何があったのか、話を聞いた。
*****
藤井さん 野良のみうが、店の前に現れたのは2014年ごろ。「どうか私たちを飼ってください。よろしくお願いします」といわんばかりに、2匹の子猫を連れてきたんです。1匹は近所の八百屋さんにもらわれ、「にゃんすけ」という名前で今も元気に過ごしています。もう1匹は、みうと一緒にここに残りました。それがめぐです。
当時、私は雇われ店長で、オーナーさんは店内で猫を飼うことに好意的ではありませんでした。放っておくこともできないので、私は店の裏に寒さをしのげる小屋を作り、そこでご飯をあげていました。みうとめぐ親子はその小屋を大層気に入ってくれて、店内には入れられなかったけど、しばらくそうやって世話をしていました。
ただ、当時の私は二度と猫は飼わないと心に誓っていました。というのも、その5年前、自宅で飼っていた15歳のロシアンブルーのマイケルと悲しい別れをしたからです。完全室内飼いで外へ出ることはなかったマイケル。しかし、2月のある晩、急に隙間から外へ飛び出してしまったんです。
すぐに探しても見つからず、連日、必死で捜索したのですが、どこにいったか見当もつきませんでした。チラシを作って貼ったり市に連絡したりもしましたが、有益な情報はありませんでした。1週間ほど経って、自宅から少し離れた道路で「車にひかれた猫がいた」との情報が近隣から入りました。現場はすでに片付けられ、首輪や風貌の目撃情報から、マイケルに間違いないと分かったんです。
2月の朝は氷点下になります。凍えながら戻る道も分からず、迷ってしまったのかもしれません。長年連れ添った子が突然目の前から消えて、さよならもいえずにいなくなってしまって…本当につらかったです。喪失感と罪悪感にさいなまれた日々が続きました。
猫にとって外は過酷な環境です。朝、出勤前に周囲をゴミ拾いしながら散歩するのが日課でしたが、当時は野良猫が多く、子猫が道端で死んでいることもよくありました。病気だったり、ひかれていたり。そういう姿をみかけたときは、ダンボールに入れ、連絡して火葬に出してあげていました。「今度生まれるときは、ちゃんとした屋根のある家に生まれ変わって幸せになるんだぞ」と祈りながら。
そうして5年が過ぎ、みうとめぐが現れて、店の裏でご飯をあげて1年ほどが経ったころ、こんなことが起きました。少し離れたオーナーさんの自宅に、別の親子猫が「私たちを飼ってください」といわんばかりに訪ねてきたそうなんです。オーナーさんは、その親子を保護して飼うことに。それでオーナーさんも猫好きになってしまったんですよ。
しばらくすると「藤井くん、裏で世話してる子たち、店の中に入れてもいいよ」と許可が出ました。それで、2匹を店内で飼えることになったんです。
みうとめぐが親子で寄り添って、仲睦まじく寝ている姿をみるにつれ、最初はもう二度と猫は飼わないと思っていたのですが、気がつくとそうした思いは消えていました。マイケルのことは本当にかわいそうな出来事だったけど、みうとめぐが、悲しみやそのときに抱いていたさまざまな感情を、時間をかけて溶かしてくれたんです。
その後4年前、オーナーさんから店を譲り受け、自分の店になりました。いま、みうとめぐは、音楽好きのお客さんに愛されています。