会社員のAさんは、梅雨時期に入ってから毎朝スッキリと起きられず、日中も強い倦怠感に悩まされています。連休明けの慌ただしい時期は無事に乗り切ったものの、梅雨入りと同時に「仕事へのやる気が出ない」「理由もなく気分が落ち込む」といった状態が続くようになりました。
最初は「最近少し疲れがたまっているのかな」と軽く考えていましたが、十分な睡眠をとってもだるさは抜けません。仕事中も集中力が続かずミスが増え、Aさんは「ただ怠けているだけなのではないか」と自己嫌悪に陥ってしまいます。
このことをAさんは同僚に相談すると「それって梅雨のせいじゃない?」と返答が。同僚の話では、梅雨時期は体調不良になりやすいとのことです。
では実際に、梅雨時期には体調変化が起きやすいのでしょうか。また、体調を大きく変化させないために、どのような生活を心がけるとよいのでしょうか。「不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック」の飯島慶郎院長(心療内科医・漢方医)に話を聞きました。
「梅雨だから不調は当たり前」と知っておくことが大切
――梅雨時期に、倦怠感や心身の不調を訴える人が増加するのはなぜでしょうか
梅雨の時期は「低気圧」「高湿度」「日照不足」という3つの条件が重なる、自律神経にとって最も過酷な季節のひとつだからです。
とりわけ気圧の低下は、内耳にある気圧センサーを刺激し、交感神経と副交感神経の切り替えを過敏にします。本来なら活動モードに入るべき日中にも、休息モードである副交感神経が優位になりやすく、それが「だるさ」「眠気」「やる気の出なさ」として表に出てくるのです。
これは気のゆるみや怠けではなく、めまぐるしい気象の変化に身体が必死で適応しようとした結果の、いわば“がんばりすぎ”の状態だとお考えください。
――梅雨時期の「低気圧」「高湿度」「日照不足」は、ほかにもどのような体調変化をもたらしますか?
低気圧は自律神経の乱れに加え、頭痛・めまい・耳鳴り、関節痛や古傷の痛みを呼び起こします。高湿度は、汗が蒸発しにくくなることで体温調節に負担をかけ、むくみ・食欲不振・胃腸の重だるさ・寝苦しさにつながります。漢方では、こうした水分代謝の滞りを「水滞(すいたい)」と呼び、梅雨に悪化しやすい状態として古くから知られています。
そして日照不足は、心の安定を支える脳内物質セロトニンの合成を低下させ、気分の落ち込みや意欲の減退を招きます。さらに夜の睡眠ホルモン・メラトニンのリズムも乱れ、眠りが浅くなる悪循環に陥りやすくなります。
――日常生活で取り入れられる、梅雨のメンタル不調対策があれば教えてください
まず大切なのは「朝の光」です。起きたらカーテンを開け、数分でも窓辺で過ごしてください。曇り空でも屋外の光は室内よりはるかに明るく、セロトニンのスイッチが入り、体内時計が整います。
次に、ウォーキングなど一定のリズムを刻む軽い運動も、セロトニンを増やし、気分を安定させます。夜は湯船で深部体温を一度上げておくと、その後の下降に合わせて自然な眠気が訪れます。室内は除湿で快適に保ちましょう。漢方の世界では、こうした梅雨の「水滞」によるだるさやめまいに五苓散(ごれいさん)の効果が知られており、つらいときには専門家に相談するのも一つの手です。
そして何より、「梅雨だから不調が出るのは当たり前」と知っておくこと。自分を責めない、その一点が、自己嫌悪の悪循環を断つ最良の薬になります。
もし「だるさや気分の落ち込みが2週間以上続く」「何にも興味がもてない」「睡眠や食欲が大きく変わった」といった場合は、梅雨の不調にとどまらず、うつ病など別の病態が隠れていることもあるため、早めの受診をおすすめします。
◆飯島慶郎(いいじま・よしろう) 心療内科医/漢方医/日本初の不登校専門クリニック「出雲いいじまクリニック」院長
「不登校/こどもと大人の漢方・心療内科」を掲げ、心と身体の境界にある“見えない不調”を専門に診療。とりわけ不登校の子どもと、その家族の援助に力を注ぐ。著書に『不登校は病気?〜医師の診断が子供と家族を救う〜』。
▽「不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック」公式ホームページ
https://sites.google.com/view/izumo-iijima-clinic