親が言う「立派な大人になってね」という悪気ない願いは、時に子どもの肩に静かに積み上がる“荷物”になっているのかもしれません。そんな現代の子どもたちへの示唆に富んだ漫画『立派な大人になるために』(作:猫野ソラさん)がSNSで注目を集めています。
物語の主人公は、一本道を歩くひとりの少年です。周囲の大人から「この道をまっすぐ進めば立派な大人になれる」と教えられ、その言葉を信じて前へ進んでいきます。しかし、ふと「立派な大人って何だろう?」と疑問が湧きます。
世界を飛び回るビジネスマンか、ノーベル賞を取る研究者か、と想像を膨らませる少年に、両親は「もっと普通でいいんだよ」「みんなにやさしくできる大人になってくれたら十分」と微笑みます。しかし同時に「そのためにはきちんと勉強して、しっかり稼がなくちゃね」「真面目に働いて、結婚して、子どもができたら同じように導いて」とさまざまな条件が積み上げられていくのでした。
こうして、「有名校」「一流企業」「結婚」「やさしく」「真面目に」といった少年の荷物はどんどん増えていきます。純粋な少年は、「重いけど、どれひとつ下ろすわけにはいかないんだ。立派な大人になるために」と懸命に歩き続けるのでした。そんな少年の前に現れたのが、どこか飄々とした“謎のおじさん”です。
そのおじさんは少年を見て「すごい荷物だね。ちょっと休んだら?」と言います。おじさんは荷物をまったく持っておらず、驚くほどに身軽でした。少年が「荷物はどこ?」と聞くと、「全部捨てちゃった」とおじさんはあっけらかんと言い放ちます。
慌てる少年に対し、「荷物はもういらないんだ。俺には必要ないって分かったからさ」とおじさんは穏やかに語るのでした。そんなおじさんはダンスが好きだと語り「踊るのに邪魔だから荷物全部手放したんだ」「人にはそれぞれ道がある。君は君の道を選んで」と軽やかに舞い踊ります。
その後、少年は荷物の重さが苦しいことをおじさんに打ち明けると、おじさんは「やさしく」と「真面目に」は“もう十分持っているから置いていっていい”と提案します。少し身軽になった少年が「不安じゃなかった?荷物を全部捨てたとき」と尋ねると、おじさんは「そりゃ不安だったさ。でもね、俺にはダンスがあるし、仲間もいるから」と力強く答えました。
おじさんと別れ、再び道を歩き始めた少年。「変な人だったな」と考えながら、その表情はどこか軽やかで、また会いたいと小さく微笑むのでした。
読者からは「全てを捨てるわけでないのがリアル」や「色んな生き方がある」などの声があがっています。そんな同作について、作者の猫野ソラさんに話を聞きました。
人間関係などで疲弊している方にも、その荷物を下ろしていいと伝えられたら嬉しく思います
―同作制作のきっかけがあれば教えてください。
いまの時代の子どもたちは、SNSも含めて常に「正解」を示されており、一つの失敗も許されない窮屈な生き方を強いられているように感じることが多く、心を痛めていました。
重荷を背負った少年の生き方をややファンタジックに描くことで、読みやすい漫画として届けばいいなと思ったのがきっかけです。
―「おじさん」を描くうえで意識されたことはありますか。
少年には他者から押しつけられた荷物を手放して、自分の思うままに生きている大人もいることに気づいてほしくておじさんを登場させました。素直で純粋な少年が「わあっ」と驚き感動するために、即興でわかりやすく見せられる芸を考えた結果、ダンスに行き当たりました。
まわりを気にせず自分の人生を楽しみ、子どもと同じ目線で話すことのできるおじさんは、私自身が憧れる理想の人物像です。
―読者に伝えたかったことを教えてください。
子どもを主人公にしていますが、他者からの期待に応えようとするあまり、職場や家庭、人間関係などで疲弊している方にも、その荷物を下ろしていいんだよとダンスのおじさんから伝えられたら嬉しく思います。
<猫野ソラさん関連情報>
▽書籍『元野良猫チャチャ 本日も見まわり中』(Amazon)
https://amzn.asia/d/0hIz538a
▽X(旧Twitter)
https://x.com/nekonosora28
▽note
https://note.com/nekonosara
▽pixiv
https://www.pixiv.net/users/44237654