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「従業員5人以下」の小さな会社が生き残る戦略は? 「日本初のオンライン専門税理士」が解説

京都新聞社 京都新聞社

 京都市北区に「日本初のオンライン専門税理士事務所」を掲げる税理士の板山翔さん(40)。これまで見てきた300社以上の経験から、自らの失敗と成功の経験も踏まえ、小さな会社の生き残り戦略を説いたビジネス書を出版した。執筆の動機には、試行錯誤を重ねながら「自分にしかない価値」を掘り当てていった軌跡があった。

 1986年、京都府宇治市に生まれた板山さんは大学在学中、母親が体を壊したことをきっかけに、家族を支えるために大学中退を決意する。塾講師や家庭教師をかけ持ちしながら生計を立てていた板山さんは、「学歴がなくなった分、先につながる資格が必要」と痛感したという。

最大の理由は「試験制度」

 目を向けたのが「税理士」だった。理数系が得意だったこともあるが、最大の理由は「働きながら1科目ずつ受験できる」という試験制度にあった。マラソンのように何年もかけて合格を積み上げられることや、塾講師として培った勉強法のコツも武器に挑戦。税理士事務所で働きながら、6年かけて5科目すべてに合格し、2016年に税理士登録を果たした。

 板山さんは「税理士試験で最後の科目に受かったらいちかばちか開業してみよう」と心に決めていた言葉通り、合格を機に個人事務所を開業した。だが、顧問先は紹介経由の数人のみ。税理士事務所勤務などとの兼業をしながら、夜間と土日だけの「副業税理士」として細々と続けた。

 そこで、会計資料を郵送せずにスマートフォンで撮影するだけで決算申告ができる「スマホ税務会計システム」を独自で開発。チャットやウェブ会議ツールによるオンライン専門の仕組みを整え、低い顧問料でも利益が出る体制を構築した。自身の制約を強みに転換し、「土日夜間対応可能なフリーランスのための税理士事務所」をキャッチコピーに掲げた。「本当のところは、土日夜間しか対応ができなかったのですが、そこをあえて売りにしたわけです」と振り返る。

 問い合わせは増え、フリーランスや小規模事業者を中心に顧客が着実につき、開業1年後には月商100万円を達成した。しかし喜びもつかの間、仕事量は想定をはるかに超えて膨らんでいく。

人気も収益が伴わないジレンマ

 平日はフルタイムで経理職をこなし、帰宅後の深夜から翌朝にかけて申告書を作成し、土日は丸ごと税理士業に充てる―。そんな生活が延々と続いた。

 「安さで選ばれているので、単価を上げることもできない。顧客は増えるのに、手元にはほとんど残らない」。

 作業に追われながらも収益が伴わないジレンマに、板山さんは限界を感じ始めていた。

 その後、自らの事務所を別の税理士事務所と合併するという方向にかじを切る。国税局OBが運営する税務調査に強い合併先と、オンラインの効率性にたけた板山さんの事務所が組み合わされば「お互いの強みを生かせるはず」、そんな算段だった。

 しかし実態は逆だった。合併先は完全な「紙文化」。オンラインのやり方と融合できず、規模の小さい板山さん側が紙に合わせるほかなかった。結果として約2年半で法人を離れ、2020年に現在の「板山翔税理士事務所」を改めて開業した。

 「やることが広がっただけで、効率は落ち、稼ぎも思うほど増えなかった。自分の良さを生かせなかった典型的な失敗でした」

 板山さんのこの体験は後に著書の中で、「間違った差別化の事例」として赤裸々につづられている。

コロナ禍で状況が一変

 最初の個人事務所の時代は「オンライン専門」であることを表立って言いにくい空気もあった。顧客情報をクラウドで管理することに対し、情報管理の懸念が業界内に残り、在宅勤務の明確なルールもなかった時代だ。「コソコソやっていた」と板山さんは苦笑する。

 コロナ禍でオンライン対応が一般化すると、状況は一変。「オンライン専門」ということで、現在は京都を拠点に、首都圏など全国の顧客とフルオンラインでサービスや相談業務を提供している。

 オンラインであるため顧客先に出向いたりする移動の時間が必要なくなった。そうした空いた時間を使って板山さんが力を入れたのが、税務や経営に関する情報発信だ。

 2021年から始めたYouTubeチャンネル「税理士ショウの超わかりやすいビジネスQ&A」は登録者は現在1万1000人超に。もともとは顧客への説明ツールとして始めたものだ。

 「インボイス制度が始まる直前に関連動画を上げたら、一気に伸びた。しかし伸び続けているのは、税務のわかりにくいところを元塾講師がわかりやすく説明するというコンセプトが機能しているからだと思う」と板山さん自身は分析する。

 「小さい会社の経営者は自分の経験を糧に戦略を考えていくことが多い。自分のように税務を通じて、また経営についても語れる税理士の言葉を、情報源の一つとして自分を使ってもらえたらうれしい」と話す。

「差別化が必要な時代」に

 コロナ禍を経た今、「当時以上に差別化が必要な時代」だという。「何もかもオンラインでできるようになった結果、お客さまから選ばれるにはどうしたらいいのかを、より考えていく時代になっている。私の事務所も『従業員5人以下の小さな会社のためのオンライン専門の税理士事務所』と、ターゲットをあえて絞ることで、小さい会社の経営者が選びやすい状況を作り出している。今後も自分にしかない価値を突き詰めて差別化していく時代が来ると思うので、経営者だけでなく従業員もそれを考えていく必要がある」と展望する。

 こうした活動の集大成として2月、初の著書「5人以下の小さな会社の戦わずに勝つ差別化戦略」(日刊現代刊)を出版した。世界的な経営戦略家、マイケル・E・ポーターの「競争戦略」を中心とした経営理論を、小さな会社が実際に使えるようアレンジして解説。スターバックスコーヒーや板山さん自身の事務所の経営分析など実践事例も交えて説明している。

 あれもこれもと手を広げた時代の失敗、安さだけで顧客を集めた創業当初の限界。いずれも「間違った差別化」の実例として本に盛り込んだ。

 「素晴らしい経営理論が世の中にはあるのに、小さな会社はそれを使えていない。その理論を、わかりやすく届けるスピーカーとして頑張りたい」と今後の目標を語る。

 定価1650円。四六判224ページ。

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