「南海トラフ地震が遠くない将来に起こるとニュースで聞いて不安です。もし、薬が飲めなくなって、持病のてんかんの発作が出てしまったら…」
そう語るのは、30代女性の松永ゆみさん(仮名)です。松永さんは、夫婦二人暮らしで関西圏に住んでいます。松永さん自身は幼い頃からてんかんを患っているものの、服薬治療でここ10年は発作が抑えられている状態です。
松永さんのように持病や障害があり、毎日の服薬が欠かせない人は少なくありません。
大災害が起こってしまった時に備えて、毎日薬を必要とする人々が事前に準備できることはあるのでしょうか。東日本大震災の事例をもとに、お薬手帳の重要性や災害の備え方について考えていきましょう。
お薬手帳の重要性が再認識された東日本大震災
東日本大震災は、津波被害などにより医療機関や薬局の電子カルテや薬歴等の医療インフラに大きな被害をもたらしました。
そのような状況の中、医療の場面で重宝されたツールがお薬手帳でした。
お薬手帳の活用で、円滑かつ適切に医薬品が患者に受け渡され、適切に医療が提供される場面が多く見受けられたのです。
『今般の災害で、お薬手帳が医療情報を集積・共有する媒体として有用であったこと、またお薬手帳による患者への医療情報の開示により納得・安心して医療を受けることにつながるなど、お薬手帳の有用性が改めて経験として得られた』と日本薬剤師会は表明しています。
(「東日本大震災時におけるお薬手帳の活用事例」より引用)
災害時の薬の備え方
災害が起こってしまった時に、毎日服薬を必要とする持病を抱える人々は、どうすれば良いのでしょうか。
災害が起こる前にできることについて、考えていきましょう。
◇最低3日分の予備薬を保管
災害時には、薬がすぐに手に入らないケースは珍しくありません。常に服薬を必要とする薬は、最低でも3~7日分は備蓄しておきましょう。薬の期限が切れていないか確認し、備蓄している薬は定期的に新しいものに交換します。
また、体調の維持のために必要とする薬(糖尿病のインスリンなど)は、必ず予備を準備しておくことを忘れないようにしましょう。出先で災害に遭う可能性もあるため、可能ならば持ち歩くバッグに備蓄用の薬を入れておくと安心です。
◇お薬手帳のコピーやアプリ活用
お薬手帳があれば、正確な服薬状況や治療状況が把握できますので、災害時には役に立つことが多いでしょう。備蓄用の薬とともに、お薬手帳のコピーを一緒に袋の中へ入れていると安心です。また、昨今普及している電子版お薬手帳の活用は、お薬手帳の持ち忘れや紛失も防ぐことができます。
ただし、電子版お薬手帳はスマートフォンの充電がなくなると、災害時にはすぐに共有することが難しくなる場合もあるため、いずれにせよお薬手帳のコピーはとっておくと便利でしょう。
◇かかりつけ薬局での災害時の対応
薬局では災害に対応するため、様々な活動を地域で担っています。例えば、被災者への薬の供給や、不足する薬の補給手配、医療救護所での支援活動などです。
しかし災害の程度によっては普段通りの機能が維持できない場合があります。その場合、薬局によっては、薬の相談や受け渡しをできる場所を臨時で設けるケースもあるようです。
災害が起こっても、知っておけば命を守れるかもしない
松永さんは、災害が起きた時のために、備蓄用バッグを見直しました。災害用の備蓄バックや普段使いのバッグに数日分のてんかんの薬を入れておき、さらに、お薬手帳のコピーを普段から持つようになったそうです。
「日本にいる以上、災害は避けて通れませんから、自分の命を守ることに繋げる行動を、少しずつ見直していきたいです。」
そう語る松永さんは、どこか明るく前向きに見えました。
災害はいつどこで起きるか分かりません。もしかしたら、明日我々の身近で起きる可能性だってあるのです。
そんなとき、災害に対する知識があり、備えがあるだけで、少しは不安が小さくなるかもしれません。
いつかではなく、今から。命を守るための備えを始めてみませんか?
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)
社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。