島根県立宍道湖自然館ゴビウス(島根県出雲市)は国内で唯一、一年中シラウオが泳ぐ姿を見られる水族館だ。シラウオは水槽にぶつかるだけで死ぬほど繊細で寿命は1年。通年展示は難しいとされてきた。ゴビウスは今年、人工養殖の成功から20年。静かな現場を追った。
「いつも通り」。館外の円形水槽をのぞき込み、田久和剛史主任(44)がうなずいた。目を凝らすと、光を反射したシラウオがきらめく。四つの水槽に分け計千匹を飼育する「予備水槽」だ。
毎日、塩分濃度や水温を測り、自前で育てたプランクトンを与え、水槽を掃除する。繁殖期の春は「今日はふ化してないかな」と毎朝考えながら、のぞく。
「卵を産み、赤ちゃんがかえった時には『おおっ』て。その繰り返し」
田久和さんは10年以上、シラウオを担当してきた。2017年から途絶えずに通年展示を続けるが、繊細なシラウオの飼育は「毎年毎年が勝負」と言う。予備水槽で、泳ぎに異変がないか常に目を配る。ふらふらと泳ぐ個体が出てくると危ない。すかさず塩分濃度をわずかに高めて、事なきを得たこともあった。
ゴビウスには生き物約200種類がいるが、シラウオの飼育体制が最も厚い。担当は4人、うち田久和さんを含む2人が専任だ。
宍道湖のほとりとして
シラウオの親は4月ごろに産卵すると次々と死ぬ。通年展示には、自分たちで卵を育てるしかない。高いハードルに挑んだのは、宍道湖のほとりにある水族館としての自負からだった。
「宍道湖七珍」のほかの魚介類を通年で展示する中で、シラウオのみ季節限定というわけにはいかない。展示の基礎をつくった佐々木興係長(57)は「半透明のガラス細工のようなきれいな魚。スーパーに並ぶ白くなったシラウオしか見られないようではいけない。生きてる姿を見てもらわなくては」と言う。
佐々木さんは01年の開館当初からシラウオの人工ふ化と飼育の研究に取り組んだ。最大の壁は稚魚の育成だった。年1回の繁殖期に人工授精で6万~8万匹の稚魚をふ化させる。稚魚の全てが自力で餌を食べられず死に、歯がゆい日々が続いた。
試行錯誤を経て転機は06年。生まれたばかりの稚魚のおなかの中に初めて餌を確認した。「『あ、やっと食べた』と。そこが一番感動しましたね」。当時を振り返る。「そこからはあれよあれよという間に生き残ってくれて日々を積み重ね、気付けば寿命1年の新記録を出していた」
試みに終わりはない
田久和さんは「通年展示はゴビウスの悲願。先輩から受け継ぎ、ずっと維持する責任がある」と視線を上げる。常に飼育方法を改善し、数を増やす試みに終わりはない。
「きれーい」。2月下旬、200匹が泳ぐ館内の展示水槽に少女が駆け寄り両手を付けて見入った。
壁際に立つ田久和さんには次の目標がある。現在展示している個体は長さ6センチほど。宍道湖では10センチぐらいになるという。同じ寿命1年でも、餌や生育環境の違いなどで大きさは変わるとみられる。
「宍道湖にいるもっと立派なシラウオを見てもらえるように。水中は見えにくいけれど、自然の中にはこういうシラウオがいるんだよって」と力を込める。