プロ野球キャンプで活気に沸く沖縄、本島から南西へ509キロ、台湾までわずか111キロの距離に位置する国境の島・与那国島は、全く別の空気を纏っていた 。プロ野球取材一筋の「アラ還」記者が初上陸したその島は、南国のイメージを覆す烈風と、神秘的な神事「マチリ」が息づく場所だった。地図の端っこに生きる人々の「ホンネ」と「平和への願い」を綴る。(全4回の1回目)
日本最西端、国境の島である沖縄・与那国島に行ってきた。プロ野球取材しか知らない〝アラ還〟筆者の学生時代はインド、ネパール、パキスタン、アメリカ、メキシコ…と調子に乗って旅してきたが、今でも関心があって好きなのが国境(ボーダー)だ。目の前がお隣の国となる国境の町は何かと紛争も起こることがある一方、互いの文化もチャンプルーされて魅力いっぱい。その土地の複雑な事情を体感、知ることは何よりの楽しみだった。
今回は陸地続きではないが、沖縄本島から509キロ、台湾からはわずか111キロに位置する断崖絶壁&最果ての島に初上陸。最西端だけに当然、日本で最後に美しい夕陽が沈む。夏場で気象条件が揃えば、西の方向に台湾を望める絶景の島。その一方ではいわゆる「台湾有事」の際には最前線になりかねない場所でもある。
1月の与那国島はダウン必須
本土が極寒の1月、那覇空港から約1時間半、滑走路が1つしかない与那国空港に夕刻、到着した。曇り空を背景に、沖縄のめんそーれ、タコライス的ないわゆる浮ついた南国ムードは一切なし。気温は本土より当然高くても、風がすさまじく、結構寒い…。
出発地の神戸からのダウンウェアは着たまま。手にしていたハンカチがあっという間に300メートル先まで飛ばされ、追いかけるのを諦めた。強風のせいか、今回、祖納という集落にある宿までの道中で車はもちろん、人影は見当たらなかった。
後に教えてもらったのだが、実はこの与那国島、町役場がある規模の島なのに沖縄で唯一、カラスが1匹も生息していないという。例えばコンビニやコインランドリー、本屋などがないのは〝島あるある〟でわかる。住民が少ないからだ。だが、順応性があって賢く、本土各地で人間に迷惑をかけ続けている、あのタフネスな鳥が与那国島には一切寄りつかないとは不思議だ。過疎と人手不足に悩む与那国島でも2016年に陸上自衛隊が誘致され、人口は約1700人と増加。それなりのゴミも出るはずなのに…。
宿の女将は「石垣島からフェリーに乗ってしまった何羽かのカラスがこっちに来たけど、後悔してフェリーでまた帰ったと聞いた」と笑い飛ばした。来島した鳥類愛好家からは「カラスの天敵となる猛禽類が多く生息してるからではないか」など諸説が出たそうだが、真相はナゾ。取材不足と怒られようが、どうせならナゾのままの方が面白い。「この島には何かがある…」の感じがいい。
ハブはいないがサソリがいる島
ちなみに与那国島には毒ヘビのハブもいない。サトウキビ畑や、森の茂みに裸足ではしゃぎ回っても安全(やらんけど)だが、超小型のサソリも潜んでいるので油断は禁物。実際は刺されても大事には至らないが、気色悪い。
初日はマチリと呼ばれる島の最重要伝統行事にドタバタ劇の末、参加にこぎつけた。マチリは旧暦10月以降の庚申の日から始まり25日間に渡って行われ、むやみに立ち入ることが許されない島内5カ所の拝願所(うたき)でそれぞれ「異国人退散」「牛馬・家畜繁盛」「婿取嫁取・子孫繁栄」「五穀豊穣」「航海安全」を祈願する。
マチリに関わる村の役員、司(ツカサ)と呼ばれる祝女らは旧8月から牛、馬、豚、山羊などの動物を食する事を禁じられ、精進してマチリを迎えるという。これらの厳粛な伝統行事が残っているのは沖縄でも与那国島だけとか。過去の町長には「全町民を守るために1年間、肉を断つ」と敢行した〝修行者〟もいたほど、マチリにかける思いは熱い。後にわかったが、その元町長の奥さんは島で唯一の焼き肉店を経営している。
マチリ参加を懇願したら…
筆者も絶好の機会とばかり、村の関係者にマチリ参加をお願い。ところが、前夜、宿で出された夕食の豚の角煮が絶品だった、とポロリと漏らすと、その表情が一転。「来たらいけません」とNGを出されてしまった。
ここまではるばるやってきてマチリが見られないとは…食べるんじゃなかったと超後悔してモジモジしていると「仕方ありません。ならば塩をどこかで買ってきて頭に振りかけ〝お清め〟してください」との助け舟が…。さっそく宿の風呂場で塩を威勢良く頭にぶちまけ、よせばいいのに大真面目に冷水シャワーを浴びて身を清めた。風邪をひくかもしれないが、急いで支度に取りかかった。
参加した『ンマナガマチリ』は三線の演奏をバックに「ながく節」と呼ばれる伝統的な踊りなどが次々と披露(奉納?)された。全く観光ナイズされていないため、地味ながらも神々しい。
最後は参加者全員での「どぅんだ」と呼ばれるかけ声付きの手つなぎ踊りに筆者も参戦。当然ながら一体コイツ、誰…と好奇の目にもさらされたが、なかなかの経験をさせてもらった。来島2日目もマチリ最後を飾る『ンダンマチリ』には、しっかりと胸張って参加。「どぅんだ」も2度目となると様になっていた。
いい旅になりそう…好事魔多し!
何やらアレもコレも見られて幸先いいスタートだ。いい旅になりそう…とほくそ笑んでいると、好事魔多し。旅先で体調不良など過去になかったのだが、来島3日目で喉に痛みが生じ、発熱まで起こしてしまった。よりによって日本最果ての国境の島で…と慄いてしまったのも無理はない。3連休初日という最悪のタイミングで当然、島に一つしかない診療所は休診…。市販の風邪薬は持参してきたものの、効果ないまま、日増しに咳&発熱はきつくなる一方だ。ゲホゲホゲホ、どうする…。