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高齢猫の慢性腎不全は“飼い主のせい”ではない——「腎不全になるほど長生きしたということ」残された時間を穏やかに過ごすために

小宮 みぎわ 小宮 みぎわ

高齢になると、ほとんどの猫が通る道...腎臓の機能が落ちる慢性腎臓病という病気があります。でも考えてみれば、人間も他の動物も高齢になれば皆、あちこちの臓器の機能が衰えていきます。心臓も腎臓も胃腸も、肝臓も衰えてくるのでお酒に弱くなったり、昔のように無茶できなくなったり。足腰も弱ってきて素早く歩けなくなったりします。そしてゆっくりと体全体が衰えていき、ゆっくりと天国に向かっていくのが老衰です。

機械や電化製品でも、長い年数使い込めば、ネジが緩み、ゴムが劣化して、故障しやすくなったり、性能が落ちたりしますよね。車も古くなると燃費が落ちてきます。人間も、食べても食べても太らずに、痩せて軽くなっていきます。それは年をとれば当たり前のことなのです。

猫ちゃんは腎臓病になりやすいから気をつけろ!という飼い主さんの不安を煽ったキャッチコピーでサプリメントやフードを売り込む宣伝がありますが、果たして本当に腎臓病になりやすくて何か気をつけなければいけないのでしょうか?腎臓病には急性と慢性がありますが、加齢とともにゆっくりと進行する腎臓病は慢性腎臓病で、これに有効とされる特効薬というのは、残念ながらありません。この慢性腎臓病の病因のキーワードは加齢なので治療...というか病気予防は抗加齢、抗老化、抗酸化ということになります。つまり、腎臓に負担をかけるような食べもの、飲みもの、生活環境を避けようということになります。

以前、「まいどなニュース」で執筆した記事の中で、若い頃に飼っていた猫が15歳で慢性腎臓病になった経験を書いたことがあります。私が獣医大学に通っていた頃、その猫に私は「私が国家試験に通って獣医師になるまで腎臓病になるのは待ってな。獣医師になったら治療をして治すから」と言い聞かせていました。今から考えるとおこがましいというか、アホというか...なのですが。獣医師になっていろいろ調べてわかったことは、慢性腎臓病を根本的に治す治療法は「ない」ということでした。そして、その猫は言い聞かせたとおりに、私が獣医師になった半年後に突然、慢性腎臓病と判明しました。以降は、それはそれは出来る限りの治療を尽くしましたが、2カ月後に痙攣発作を起こして、亡くなりました。

あるとき、この記事をご覧になったというフランス在住の日本人女性から国際電話をいただきました。彼女は猫が大好きで、十数匹の猫を飼っておられ、その猫を日本からパリに移住させるのに飛行機でパリと日本を何往復もしなければならなかったことなどをお話しされました。そして、「フランスには猫チャンの腎臓病を治すお薬があるのよ~」とおっしゃって、そのことを私に伝えたくてわざわざ国際電話をかけてくださったようでした。(感謝申し上げます)。彼女の飼い猫チャン達はみんなこのお薬を飲んで長生きをしたとのことでしたので、私は是非にとそのお薬の名前を教えていただきました。

フランスで使われているそのお薬は聞いたことがない商品名でしたので、私は彼女にお礼を伝えて電話を切り、すぐにその薬の成分を検索をしました。すると、その薬は日本でも販売されている「ACE阻害剤」と言われる種類のもので、フランスだけでなく日本でも腎臓病の犬猫に使われているものでした。

ただ、残念ながらこのお薬は慢性腎臓病に対する特効薬ではなく、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)の治療ガイドラインでも、この類のお薬が有効なのは、血液中のたんぱく質が尿に漏れ出てしまう(たんぱく尿)タイプの腎臓病と、高血圧が原因で病気が悪化していくタイプの腎臓病にのみ使用が推奨されているものです。しかしながら、動物病院で診療していて、猫でたんぱく質が尿に漏れ出るタイプの腎臓病になる子は少なく、高血圧もそう多くはありません。かつては、慢性腎臓病と診断された犬猫に対して、病型の違いにかかわらず、この類の薬が処方されることも少なくありませんでした。しかし現在では、たんぱく尿や高血圧を伴うタイプの慢性腎臓病に限って、使用が推奨されるようになっています。

犬猫の場合、人間ほど腎臓病の原因が細かく調べられている訳ではありませんし、細かく調べられないのが現実です。ですので、治療も今ある症状を和らげるものに集中してしまいます。国際獣医腎臓病研究グループで推奨されているのは、以下のようになります。

①腎臓病になると必要以上に水分が尿となって出て行ってしまい水分不足になりやすいので、脱水防止のために十分に水分を摂ることと、必要があれば点滴を推奨。
②腎臓病の療法食は、リンを少なくしてたんぱく質を適度に制限し、ω-3脂肪酸が配合されているものです。早期の腎臓病から導入してリンの多食を防止することを推奨。
③高血圧やたんぱく尿があれば、内服薬によってコントロールすることを推奨。
④貧血があればそれを改善する薬物の使用を推奨。
⑤尿毒症症状(腎臓病が進行して体内に老廃物が蓄積した状態)があればその対症療法を推奨。

ほかの臓器はまだまだ元気だけれども腎臓だけが急に悪くなって...というのであれば、加齢以外の原因があるかもしれません。しかし、高齢になっていろいろな臓器の機能が低下していくのは、自然な流れです。診療をさせていただいていると、高齢で歩くのもヨボヨボで毛はぼさぼさ、歯周病もあって腎臓の数値がちょい悪い、というようにあちこちの臓器の弱り具合が均一だと、そのままゆっくり穏やかに天国にソフトランディング出来ているように思います。ですから、高齢の猫チャンで急に腎臓病と診断されると、何がいけなかったのだろうか?と思い悩む必要はないのかも知れません。

見方を変えると、これまで健康に暮らしてきたのでとても長生きできて、だからこそついに機械が壊れるように腎臓も壊れてきたと言えます。よく見ると関節も肝臓もちょっと悪い、全体的に加齢で弱っているということです。ですから、あなたは猫チャンを腎臓が悪くなるくらいにまで長生きさせた飼い主さんなのです。自分を責めたりしないでくださいね。

人間も犬も猫も、必ず天国に戻っていく日が来るのです。だから、慢性腎臓病と診断された猫チャンと一緒にいられる時間は、もうわずかかも知れません。その時間をどう過ごすのか? 一日でも長生きして欲しいからと点滴に通院するのも治療です。動物病院に連れていくのはストレスになるから、おうちで穏やかに過ごすのも治療です。この世で残された日々をどう過ごすのかは、ご家族で話し合って決められたら良いと思います。

◆小宮 みぎわ 獣医師/滋賀県近江八幡市「キャットクリニック ~犬も診ます~」代表。2003年より動物病院勤務。治療が困難な病気、慢性の病気などに対して、漢方治療や分子栄養学を取り入れた治療が有効な症例を経験し、これらの治療を積極的に行うため2019年4月に開院。慢性病のひとつである循環器病に関して、学会認定医を取得。

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