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独り身の私が亡くなったら愛猫はどうなる? 死後事務委任で安心を先取り【司法書士が解説】

長澤 芳子 長澤 芳子

都内のマンションに住む60代のAさんは、愛猫の「ミケ」と穏やかな時間を過ごしていました。頼れる親族は遠方に住んでいて疎遠であり、独身のAさんにとって、ミケは家族そのものでした。

そんなある日、Aさんはテレビで独居老人の孤独死のニュースを目にします。その日からAさんは、「もし、私がここで倒れたら…」と考えるようになりました。もし自分が孤独死したら発見はどうなるのか、葬儀や納骨は誰が行うのか、ミケはどうなるのかなど、さまざまな不安が頭から消えません。

この不安の解決策について、Aさんは「遺言書」だと考えました。しかし調べてみると、遺言書は財産の相続を指定するもので、葬儀の手配などを誰かに法的に義務付けることはできないと知りました。このような場合、Aさんはどうすればいいのでしょうか。北摂みらい司法書士事務所の光田正子さんに話を聞きました。

遺言書や成年後見制度とは異なる「死後事務委任契約」

ー「死後事務委任契約」とは、具体的にどのような契約ですか?

死後事務委任契約とは、ご自身が亡くなった後のさまざまな手続きを、信頼できる第三者に依頼しておく生前の契約です。頼れる親族がいない方や、家族に負担をかけたくない方が、ご自身の希望通りの死後手続きを実現するために利用します。契約相手は、親族や友人のほか、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家や専門の法人を選ぶことができます。

ー遺言書や成年後見制度とは、何が違うのですか?

これら3つの制度は、目的と効力が発生するタイミングに違いがあります。

まず遺言書は、主に亡くなった後の「財産の分け方」について法的な効力を持つものであり、葬儀の方法などを書き記しても、それはあくまで希望に過ぎず、相続人に実行を強制することはできません。

それに対して死後事務委任契約は、「死後の事務手続き」そのものを委託する契約であり、契約内容には法的な実行力があります。一方、成年後見制度は、認知症などで判断能力が不十分になった方を「生前に」支援・保護するための制度です。後見人の役割はご本人の死亡と同時に終了するため、原則として死後の手続きは行えません。

そのため、生前の財産管理などを目的とする任意後見契約と、死後の手続きを目的とする死後事務委任契約を、セットで結ぶ方も多くいらっしゃいます。

ーこの契約で、具体的にどのようなこと(事務)を委任できますか?

死後事務委任契約で委任できる内容は非常に幅広く、ご自身の希望に合わせて自由に決めることができます。例えば、役所への死亡届の提出や、健康保険証・運転免許証の返還、年金の受給停止といった行政手続きが挙げられます。

また、ご遺体の引き取りから葬儀・火葬の手配、納骨や埋葬に関する手続き全般も委任することが可能です。さらに、入院費用や施設利用料の支払いをはじめ、電気・ガス・水道といった公共サービスの解約、賃貸住宅の明け渡しや家財の処分といった清算事務も任せられます。

現代では、パソコンやスマートフォン内のデータ整理やSNSアカウントの閉鎖といったデジタル遺品の整理を依頼するケースも増えています。もちろん、親族や友人への死亡通知もお願いできますし、Aさんのようにペットを飼っている場合は、新しい飼い主探しや、飼育費用を託してその後の世話を依頼することも可能です。

◆光田正子(みつだ・まさこ)
司法書士 平成24年4月司法書士登録、平成28年に独立・開業。「きちんと理解・納得して手続きを進めてもらう」ことを目指して、時間がかかっても丁寧に説明することを心掛けている。私生活では思春期の娘二人がおり幼少期とは違う種類の悩みの子育て真っ最中。

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