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外の世界を知らずに10年、少年を救ったのは死神だった クワガタ兄ちゃんと歩む物語が問いかけるもの【漫画】

海川 まこと 海川 まこと

普通の暮らしの中では、生きているのは当たり前と考えてしまうでしょう。でも、平穏な人生を過ごせることは、実はとてもありがたいことです。漫画家・とらじろうさんの作品『大病だった男の子が人生を謳歌する話 夏になったらやって来る!!死神のクワガタのお兄ちゃん』では、ひょんなことから死神に命を救われた少年の生涯が描かれています。同作はX(旧Twitter)に投稿されると、約7500ものいいねと感動の声が寄せられました。

主人公の少年・友也の命は今まさに消えようとしています。両親が泣き崩れるなか、突如窓ガラスを割って死神・ザンルークがやってきました。大きいクワガタのぬいぐるみを見つけたザンルークは、「待て!まだ死ぬな!俺様がさっき採ったクワガタの話を聞け!!」と自分の力を分け与えます。

すると、なんと友也の病気は完治したのです。両親は「なにかお礼を…」と言いますが、ザンルークは「うるせー!そのクワガタよこせ!!」とぬいぐるみにしか興味がないようでした。

その後、退院した友也が初めて自分の家に帰ると、ザンルークは再び窓ガラスを割って侵入してきます。2人でクワガタ採りに行くと、ザンルークは「大きいクワガタは俺様によこせ!」と相変わらず高圧的ですが、毎年クワガタを採りに行くと約束を交わしました。

友也は中学生になりました。いつものようにザンルークは窓ガラスを突き破ってやってきますが、注意すると次は壁を突き破って入ってくるようになります。しかし母親は「いいの!夫は大工だし」とまったく気にしていないようでした。

高校生になった友也に、ついに彼女・カナができました。初めての家デートの日、友也は「今日だけはアイツに来てほしくない…」と思いつつカナといいムードになった瞬間、2人の期待を打ち砕くようにザンルークがやってきてしまいます。

カナとザンルークは友也を賭けたクワガタ捕獲勝負になりますが、結果はカナの勝ち。カナはザンルークの師匠となりました。

そして友也が大学生になったある日、友也とカナはキャンプデートに出かけます。2人きりでテントを張り、バーベキューをして、クワガタを採って楽しんでいましたが、どうも違和感があるのです。

なんと、当たり前のようにザンルークが溶け込んでいました。デートを邪魔され続けているカナは、ザンルークに強く文句を言います。するとザンルークはすねてしまいましたが、クワガタを架け橋になんとか仲直りしたのでした。

そして友也は、ついに社会人になります。3回目の転職をしたある日、残業でクタクタな友也のもとにザンルークがやってきます。死神に救われて20年、ザンルークの過去話を聞きながら今年もクワガタを採りに行くのでした。

その後、ついに友也とカナは結婚し、双子の男の子が生まれます。2人じゃ全然人手が足りないと嘆いていると、今年もザンルークがやってきました。ミルクにオムツ交換、哺乳瓶洗いと、ザンルークには意外にも育児の才能があるようです。

それから数年後、息子たちは大きくなりました。すっかり息子たちもザンルークと仲良くなり、今年もクワガタキャンプをします。「これからも遊んでやる!」と握手を交わした友也とザンルーク。それから息子たちが大きくなっても、家元から離れても、友也が年老いても…ザンルークは毎年クワガタを採りにやってきます。

そしてとうとう、友也は病院で寝たきりになってしまいました。今年も友也のもとに、ザンルークがやってきます。友也はザンルークに「あの世ってどんなところ」「両親やカナはどうしてる」と尋ねると、どうやら皆あの世で元気にしているようです。

死ぬのは怖いと思っていた友也でしたが、ザンルークと「あの世で一緒にクワガタ採りに行こうな!」と約束を交わし、友也はあの世に導かれるのでした。

同作に対し、SNS上では「重いテーマだけど明るく救われた気分になった」「最後は涙が止まらなかった」などの声があがっています。そこで、作者のとらじろうさんに話を聞きました。

『普通の人生』って実はものすごく尊い

―この作品を描くにあたってのテーマを教えてください。

“平凡な人生は、この上ない幸福である”という思いが根本にあります。

病院には長期間帰れない方や、家族のもとに戻りたくても戻れない方が大勢います。私は10年以上医療現場で働く中で、そうした方々の葛藤や願いに触れてきました。

「猫の世話をしに帰りたい」と写真を見せてくれる方や、「今日は子どもの運動会なんです」と涙ぐむ若いお母さんもいました。その度に“どうにか日常に戻してあげたい”と思う一方、現実では叶えられない苦しさも感じていました。

漫画を描き始めた理由の一つに現実では救えなかった方々を物語の中で救いたいという思いからです。あの世を舞台にした作品が多いのも、死後の世界が平和で美しい場所であってほしいと願っているからです。読みながら少しでも心が軽くなる世界を届けたいと思っています。

―とらじろうさんは医療従事者とお聞きしましたが、本作にも医療従事者ならではの視点など反映されているのでしょうか。

医療機器の配置や点滴ルート、シリンジポンプなど、細かな点にも気を配って描いています。主人公の友也は重い心臓病で、日常的にお腹から心臓に管を通した「補助人工心臓」と共に生活しています。

心臓移植が決まるまで取り外せないため、病院の外へ一度も出られないまま人生を終える子どもたちが実際に日本全国にいます。作中では病名を直接描いていませんが、「なぜ外に出られないのか?」「どんな病気なんだろう?」と読者に疑問を持ってもらうことを意図しています。

そこから調べていただき“こんな病気があるんだ”と知るきっかけになれば嬉しいです。

―作品のこだわりポイント・注目して欲しい部分はありますか。

シリアスな導入から一転してコメディに変わる“落差”を楽しんでいただきたいです。

死神ザンルークと友也の人生を淡々と描きつつ、そこには誰もが経験する当たり前の出来事が並んでいます。学校へ行くこと、働くこと、誰かを好きになること、おじいちゃんになること…。本来なら叶わずに終わるはずだった友也にとって、それらすべてが特別で、幸せそのものだと思っています。

読んだ方にも“普通の人生って実はものすごく尊いんだ”と感じていただけたら嬉しいです。

<とらじろうさん関連情報>
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▽X(旧Twitter)
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▽pixiv
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