岡山県を代表する観光地・倉敷市美観地区にある就労継続支援B型事業所「ICHIGOWORKS」に、文字を切り抜く特技を仕事に生かそうとしている利用者がいる。知的障害のある村越楓さん(21)。これまでに所内の案内表示を手がけたほか、事業所の催しで注文に応じて即興で制作。今後は外部に活動をPRし、企業ロゴといったデザインの仕事の受注を目指す。
「私に切れない文字はない」。下描きなしで紙にはさみを入れ、村越さんはゴシック体風の切り文字を手早く完成させる。記者が「美観地区」を依頼したところ、3分足らずで5センチ大の4文字を仕上げた。
幼いころから絵を描くのが好きで、中学3年時に切り文字を始めた村越さん。2022年4月にICHIGOWORKSの前身の事業所に入り、巾着袋のひも通しといった作業の合間に制作を続けていた。
転機となったのは23年10月の事業所改装。出入りしていたコンサルタント兼グラフィックデザイナーが村越さんの〝作品〟を目に留め「才能を生かすべきだ」と職員に助言したことで、切り文字が所内のトイレなど5カ所の案内表示と、事業所が運営するたい焼き店の看板に採用された。
特技を広く知ってもらおうと職員に背中を押され、5月には所内のアート展で実演した。対話が苦手なため、自動販売機を模した段ボール製のついたてを用意し、見本の切り文字も表示。有料(1回500円)にもかかわらず、約10人が自分の名前や好きな言葉を注文したという。
11月22、28日、12月1日には事業所関係者の知人が営む花店「フラワーショップPEPE」(倉敷市新田)で開かれるイベントに初めて参加する。「たくさんの人に来てほしい」と村越さん。同店は今後、花に添えるメッセージカードに切り文字をあしらうことも検討している。
事業所の吉田秀樹施設長(49)は「村越さんは切り文字を作っているときが一番生き生きとしている。多くの人に才能が認められ、仕事につながるよう引き続き支援していく」と話している。