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反中テロへ変質 シノフォビアを醸成 新たな火種はらむ「反一帯一路」運動は最も重要な地政学リスク

和田 大樹 和田 大樹

中国が掲げる巨大な経済圏構想「一帯一路」は、アジア、アフリカ、欧州に跨がるインフラ整備と経済連携を軸とした壮大なプロジェクトである。その規模と影響力は計り知れず、参加国にとっては経済発展の起爆剤となり得る一方で、この構想の進展とともに、新たな地政学的・安全保障的リスクの萌芽が見られる。

反一帯一路運動の核心

「反一帯一路」運動とは、この中国主導の経済的関与に対する、現地の様々な主体による抵抗と反発の総称であり、その実態は単なる政治的な異議申し立てを超え、暴力的なテロリズム、社会不安、そして構造的な経済的摩擦へと発展している。

「反一帯一路」運動の核心にあるのは、中国による「政府癒着型」の経済的関与に対する不満である。一帯一路プロジェクトは、多くの参加国において、透明性の低い契約、過剰な債務の発生、そして中国企業や労働者の優遇といった問題を引き起こしてきた。

これらは、現地の雇用創出や技術移転にほとんど貢献せず、むしろ地元の資源を中国が一方的に「搾取している」という認識を広げる結果となっている。特に、港湾や鉱物資源など戦略的に重要なインフラや天然資源に関わるプロジェクトでは、その懸念は顕著である。

反中テロへ変質

この経済的な不満が、しばしば分離独立運動や民族自決を掲げる武装勢力に利用される形で、暴力的な「反中テロ」へと変質している点に注目する必要がある。

例えば、パキスタンのバルチスタン州のような地域では、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)に対する反発が、地元の武装勢力「バルチスタン解放軍(BLA)」などのテロの動機となっており、中国人技術者や外交官を標的とした襲撃事件が繰り返し発生している。これは、武装勢力が「一帯一路」を地元の天然資源の略奪と見なし、自らの闘争の大義として利用していることを示している。このようなテロは、単なる治安の悪化に留まらず、中国政府の威信、プロジェクトの継続性、そして現地で活動する外国人全般の安全保障に深刻な影を落としている。

中国恐怖症を醸成

テロリズム以外にも、中国への経済的依存に対する懸念、環境破壊、土地収用を巡る紛争、そして文化的な摩擦といった形で、反発は多層的に現れている。

さらに、中国の存在感が強まることが、一部の国や地域における「中国恐怖症(シノフォビア)」を醸成し、それが若者を中心とした大衆的な抗議活動やデモに発展することもある。これは、中国の「ソフトパワー」戦略の限界を示すものであり、経済的な利益供与だけでは、現地社会の根深い不満や民族的・文化的な抵抗を抑え込むことができない現実を浮き彫りにしている。

この「反一帯一路」運動は、一帯一路プロジェクトの持続可能性を脅かすだけでなく、中国がグローバルな大国としての地位を確立する上での構造的な課題を突きつけている。中国が進出する地域におけるテロリズムのリスク増大は、中国自身の安全保障上のコストを増大させているだけでなく、これらの地域に進出する他国の企業や邦人にも新たなリスクとして降りかかってくる。

したがって、「反一帯一路」とは、単なる外交問題ではなく、中国の対外戦略、現地の民族・宗教問題、テロリズム、そして国際経済秩序のあり方が複雑に絡み合った、現代における最も重要な地政学リスクの一つとして捉えるべきである。この運動の進行と拡大は、国際的な安全保障環境の不安定化を加速させる要因となる可能性を秘めており、今後の国際情勢を占う上で、その動向を注視し、分析することが不可欠である。

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