社会問題化しているカスタマーハラスメント(カスハラ)を巡り、滋賀県内の自治体は電話の録音以外にも幅広い対策に取り組んでいる。自治体職員は民間企業よりカスハラを受けやすいとされ、専門家は職員側の対応力向上も必要だと指摘する。
来庁者対応が多い大津市戸籍住民課。入り口付近に「STOP!カスタマーハラスメント」と記したポスターが掲げられている。同市がこの4月に始めたカスハラ対策の一つだ。
同市によると、職員アンケートでカスハラ経験者は6割超。人事課職員支援室の仲野全彦室長は「想定より多かった。カスハラによって心身が疲弊して休職につながりかねず、まずは職員も市民も意識付けができれば」と話す。
市のハラスメント防止の指針にカスハラの定義を追記。対応マニュアルも作り「基本は1人で対応しない」「事実確認せず要求を認めたり謝罪したりすることは避ける」などとした。
交流サイト(SNS)でさらされる恐れがあることから、庁舎管理規則に承認なしの撮影や録音を禁じる項目を追加。職員の名札から顔写真を削除するとともに氏名のフルネーム表記を止め、名字のみをひらがなとローマ字で示している。
名札については甲賀市や東近江市、多賀町を除く各市町でフルネーム表記を止めている。東近江市の担当者も「状況によっては名札を外して対応するよう周知している」。栗東市は昨年に各課の入り口に掲示する職員の座席表も廃止した。
激しい暴力行為に対応するため、滋賀県は昨年度から刺股の配備に力を入れ、5月19日には職員が使い方を学んだ。高島市も県警と連携し、刺股の講習会を実施。米原市は2023年に不当要求行為等対策条例を制定、滋賀弁護士会と協定を結ぶなど態勢を強化している。
総務省が全国388自治体の職員を対象に昨年行った調査によると、過去3年でカスハラを経験した割合は35・0%。厚生労働省が昨年公表した民間企業対象の調査結果の10・8%を大幅に上回った。
東京都での勤務経験がある「職場のハラスメント研究所」の金子雅臣代表理事は「基本的に住民は困りごとを解決するために役所に行く。税金で運営されていることもあり、きちんと答えるべきという期待が裏切られるといら立ちが生じやすい」と指摘。「法律や規則に従う公務員側も木で鼻をくくったような回答ではなく、代替策を示すなど接遇を大事にしてほしい。トラブルがあれば民間企業のように上司が積極的に窓口に出るなど組織的に対応することが重要だ」と話す。