病気でぐったりの愛猫が、目を輝かせた最後の晩餐とは?…「辛い闘病や過去の記憶を塗り替えたい」飼い主の愛情に涙

はやかわ リュウ はやかわ リュウ

この一口が明日の命に繋がると思い、泣きました

松尾さんが子猫の時に保護した、先代猫のコタツちゃんも元野良猫。あんかちゃんと同じく扁平上皮癌を患い、口内に腫瘍ができていたため、通常の猫フードは食べられなかったそうだ。

「エナジーチュールも食べられなくなり、リキッドの栄養食をシリンジで強制給餌することになったのですが、それは私から見ても食事ではなく……。悩んだ末、私が夜食に食べていたロールケーキの生クリームや、サンドイッチのハムを欲しがっていたのを思い出し、生クリームを試しにあげたら舐めてくれました。その一口が明日へ命が繋がると思い、嬉しくて泣きました」(松尾しよりさん)

食べることは、生きること

口内の腫瘍が悪化したあんかちゃんも、コタツちゃんと同じ経緯をたどったという。

「タクシーで動物病院に通院する道すがら、昔ながらの魚屋さんを見かけていたのですが、もしかしたら……と思い、タクシーを止めてもらって、初めて魚屋さんで買い物をしました。生物を食べれない私でもおじさんが奥の冷蔵庫から出してきてくれたマグロは、キメが細かくてゼリーのようで、これはとても美味しい物なんじゃないかと思いました。

オマケの甘エビとマグロと生ホタテを買って帰って、もしあんかが食べてくれなかったら私が焼いて食べるしかない、と思っていました。ぐったりしたあんかの前にマグロと生ホタテを出すと、あんかの顔がぱっと輝いてガツガツ食べてくれた時、食べるってすごいことなんだなと思いました。この最後のご飯を思い出のお弁当にして、天国へあがってほしいと願いました」(松尾しよりさん)

辛い思いも過去も、美味しい記憶で塗り替えたい

若くて元気で健康な時期であれば、ペットに「ペットフード」以外のものを与えるのは賢明ではないだろう。

「獣医さんから『何でも食べれるものをあげて下さい』と言われた時は、もうお弁当を持たせてあげる以外何も出来ないよ、ということなので、治療や手術で辛かったとか、お腹が空いて辛かったとかではなく、好きな物を何でも食べて、美味しかったなって、思い出のお弁当を持って旅立たせたいと思います。

生クリームのお弁当を持たせたコタツは野良猫だった子です。猫ボラさんが言うには、あんかはもともと飼い猫だったのに捨てられ、兄弟猫が先に亡くなり公園に独りぼっちで住んでいたところを私が拾ったっぽいです。そういう辛い思いも、最後に美味しいものの記憶で塗り替えたい気持ちもありました」(松尾しよりさん)

あんかちゃんのために、「もったいねぇな」と言いながら、最高のマグロの赤身を出してくれたお魚屋さんには、「今もたまに焼き魚を買いに行く」と、松尾さん。

「猫は?と聞かれ、亡くなりましたと伝え、お礼を言いました。もったいねぇマグロは、あんかちゃんの一生のなかでいちばん美味しいものだったと思います」(松尾しよりさん)

愛猫たちへの愛にあふれた最後の晩餐を美しい言葉で綴ってくれた漫画家、松尾しよりさん。松尾さんの体験レポートを描いた漫画作品『前世療法へようこそ ヒプノセラピーブロマンス』が各ブックサイトにて配信中だ。

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