経理として働くAさんは、近ごろ上司からの嫌味にストレスを感じていました。Aさんは新婚でいつも妻が作ってくれた弁当を持ってきているのですが、上司はその弁当を見て「あまりうまそうじゃないな」と余計なひとことを言うのです。仕事をしていても、チクチク嫌味を言ってきて何がしたいのかわかりません。どうも自分が独身だからか、新婚のAさんが気に入らない様子です。
いつもは聞き流していたAさんですが、ある日堪忍袋の緒が切れる事件が起こります。会社の歓迎会の時、上司はいつものように酒を飲みすっかり酔っぱらってしまいます。足元もふらつく中Aさんが心配そうに声をかけようとすると、その上司は「使えないやつはあっちにいってろ!この馬鹿たれ!」と言い放ちます。これはやばいと感じたAさんは、急いでスマホを取り出し録音することに。それに気づかず上司は、さらに口汚く罵ってきたのでした。
後日Aさんは録音データをもとに、上司に詰め寄ります。しかし本人は覚えていないと言い、さらに「飲み会は仕事とは関係ないだろ!」と逆上する始末です。これはハラスメントではないのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに詳しく聞きました。
ー会社の飲み会の席での暴言はハラスメントにあたるのでしょうか
厚生労働省によると「優越的な関係に基づいて行われること」「業務の適正な範囲を超えて行われること」「身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること」の3つのいずれも満たすものをパワハラとしています。
この中に、就業時間内に限定する文言はありません。したがって業務時間外の飲み会の席とはいえ、今回のAさんのケースは前述した3つの要件を満たしていると考えられるでしょう。
仮にAさんがこのやり取りをきっかけに精神疾患を患ったとすると、労災が認められる場合もあります。会社は安全配慮義務を果たしていないと判断され、責任を問われるかもしれません。もちろんその上司は、民法上の責任も問われかねません。
ーAさんはどのような手続をすればいいのでしょうか
まずは企業が設置しているハラスメントの相談窓口に報告をしましょう。企業内に相談窓口がない場合は、社外に相談窓口が設置されえているはずです。もし相談窓口が設置されていない場合は、社長などの責任者に相談することになります。ただ、責任者から「我慢して欲しい」などと言われたら、別の手段を考えるしかありません。
ー別の手段というのはどういうものなのでしょうか
もし会社が動いてくれないのであれば、労働基準監督署に相談するといいでしょう。その際に、音声などの証拠があればより有効です。また、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談する方法もあります。「あっせん」制度を利用すれば、申立費用は無料で、専門家の力を借りることも可能です。
いずれにせよ、証拠を積み重ねておくことが重要です。ただそこまでして残りたい会社なのかどうかも同時に考えた方がいいでしょう。そのような上司を重要なポストに据える姿勢なのですから、今回解決できても今後が心配ですからね。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。