千葉県の銚子電気鉄道では、3月に元南海2200系がデビューしました。この車両の塗装は、昭和から平成初期にかけて見られた緑色を基調とし、大きな話題を呼んでいます。一方、車いすスペースが完備され、現代のニーズにも対応しています。
ところで、関西大手私鉄の中古車両が他社で活躍している例は、関東大手私鉄と比べて少ないように思います。その理由について、考えてみました。
関西大手私鉄の中古車両は少ない
2024年9月現在、中古車両が第二の職場で活躍している関西大手私鉄は、阪急、京阪、近鉄、南海です。阪急の中古車両は、子会社の能勢電鉄で活躍しています。能勢電鉄は阪急電鉄と直通運転を行っているため、まるで阪急の一支線のようです。
京阪では、元特急車の初代3000系が富山地方鉄道で活躍しています。2階建てのダブルデッカーを含む観光列車「ダブルデッカーエキスプレス」も運行され、京阪時代と変わらず人気の高い車両です。
近鉄では、元南大阪線・吉野線の特急車両16000系が静岡県の大井川鐡道に在籍しています。この車両は、塗装や内装がほぼ近鉄時代のままで、昭和の近鉄特急車両を今に伝える貴重な存在です。また、養老鉄道や四日市あすなろう鉄道等にも元近鉄車両が在籍していますが、これらの会社は平成時代に近鉄線を引き継ぎました。
南海では、先述した銚子電鉄のほか、大井川鐡道や和歌山電鐵でも元南海車両が見られます。大井川鐡道では「ズームカー」の愛称で知られる21000系が在籍しています。コロナ禍にはステンレス車の元6000系を譲り受けましたが、現在のところ営業運転には就いていません。和歌山電鐵は南海貴志川線を引き継いでいます。
一方、関東大手私鉄では、東急の中古車両が北は青森県から西は島根県まで幅広く活躍しています。
なぜ少ないのか
確かに、関西の大手私鉄の多くが標準軌(1435mm)を採用し、狭軌(1067mm)を採用している地方ローカル線との互換性が低いという問題があります。しかし、これは絶対的な理由ではありません。
京王のように、特殊な線路幅(1372mm)を持ちながらも全国に車両を譲渡している例もあり、線路幅が中古車両譲渡の障壁にはなっていないと考えられます。
次に考えられるのは、車両の交換サイクルです。関東大手私鉄は、関西大手私鉄に比べて車両の交換サイクルが早く、1980年代後半以降に製造された車両が中小私鉄に譲渡される例も見られます。
この時期に新造・改造された車両は、VVVFインバータ制御装置や回生ブレーキ(ブレーキ時に発電した電力を架線に戻すシステム)を採用。高度経済成長期の車両と比べてコストやエネルギーの節約ができるため、鉄道会社にとっては魅力的な車両といえます。
たとえば、三重県・岐阜県を走る養老鉄道は元東急7700系を導入した理由のひとつとして「回生ブレーキ採用のため動力費の削減ができる」を挙げています。
一方、関西大手私鉄では、1980年代から1990年代半ばにかけて製造されたVVVFインバータ車は、リニューアルを経て現在も第一線で活躍し、しばらくは中古市場に出ることはなさそうです。
3つ目は、バックアップ体制です。東急は、グループ会社である東急テクノシステムが譲渡先のニーズに合わせて改造を行うほか、譲渡先への講習も行うなど、サポート体制が充実しています。このため、元東急車が全国各地で活躍している、というわけです。
昭和から平成にかけて、関西大手私鉄の中古車両が全国地方で活躍しましたが、現在はめっきり数を減らしました。
例えば、元阪急車両が広島県や和歌山県、元阪神車両が香川県や福井県で活躍していた時期もありましたが、今ではそれらの車両は引退しています。
最後に、社会資本の整備を目的とした国の「先進車両導入支援事業」に言及したいと思います。
これは、先進的な車両を導入する事業者を支援するものです。対象は新車だけでなく、先進的な車両への改造も含まれます。
「先進車両導入支援事業」の導入事例が増えると、改造内容も含め、中古車両に対する考え方が変わるかもしれません。