「1日で2億6000万円飛んでいったわ」88歳現役トレーダー、 株価大暴落でも一喜一憂せず、心を保つ秘訣とは?

山脇 未菜美 山脇 未菜美

「1日で2億6000万円飛んでいったわ」。8月5日、株価が大暴落した日のことを、88歳の現役デイトレーダー・藤本茂さんはさらりと振り返った。日経平均株価4451円安。当時、ニュースでは暴落を嘆く人の声であふれていたが、藤本さんは動じなかったという。投資歴68年、株価の乱高下に一喜一憂せず、心を保つ秘訣とは―。

100円の利益より1、2円の利益

8月1日午前8時ごろ、神戸市東灘区の自宅マンション。2DKの自宅で「よお来たな」と藤本さんは迎えてくれた。リビングのテレビからはマーケット専用チャンネル「日経CNBC」が流れ、藤本さんの目の前には3台のパソコンモニター。「ピーピー」とインコのピーちゃんが鳴く中、数字が並ぶチャート画面を注視し、売買の値段を表す「気配値」を見定めていた。 

午前9時に取引が始まると、「今日は安い。下がっとるわ」。人差し指一本でゆっくりとキーボードを押して、次々と注文していった。竹内製作所(4740円)を2000株で948万円、住友商事(3604円)を2000株で7208万円…と数百万、数千万単位の取引はざら。上場銘柄約3900銘柄のうち、監視銘柄としている約1200銘柄の中から、月500~600回の取引を行っている。

ある銘柄を指しながら、藤本さんが説明する。「3600円で買い、売りが3601円。今の時点でね。差額で稼ぐんです。1円の差でも1万株で1万円でしょ。10万株あったら10万円。安いと思ったら買いに行く、高いと思ったら売りに行く。100円の利益より、1円2円の利益の方を選ぶんですよ」

66歳からネット取引を始め、毎日深夜2時に起床し、午後7時に就寝する株生活をおくってきた。コツコツ貯めた資産は18億円に上る。

バブルで10億→2億円に

「日本のバフェット」とも称される藤本さんだが、昔は貧乏暮らしだったという。1936年、兵庫県高砂市の農家に、4人きょうだいの末っ子として生まれた。高校卒業後にペットショップに勤め、19歳の時に証券会社の役員から勧められて投資を始めた。その後、独立してペットショップを営んだ後、甲南大学の近くに雀荘を経営した。86年に雀荘3店舗を6500万円で売却し、専業投資家に転身した。

ちょうどバブル期真っ盛り。1985年に1万3000円ほどだった日経平均株価は、87年に2万円、88年に3万円を超え、89年には当時の過去最高である3万8915円を記録した。藤本さんの資産も10億円にまで増えたが、バブル崩壊の足音には気付けなかった。

「渦中にいると分からんもん。あーーーって思っている間に株価が下がって、掲示板をボーっと見とるだけや。もうあらゆる銘柄がストップ安で、値段が付いてなかったんや」。資産は一気に2億円に減った。

株に身が入らないまま妻と海外旅行に行き、95年には阪神・淡路大震災で被災した。「当時もここの1階に住んでた。寝床から突き上げられたと思ったら大きく揺れて、あれよあれよという間にマンションがぺしゃんこになって、膝の低さにまで潰れた。女房と2人で這って窓から逃げ出して、寝間着のまま裸足で早朝の神戸の街を歩いてな。自宅に残っているのは、目覚まし時計1つだけや」

本格的に投資を再開したのは、震災から7年経った2002年ごろ。66歳。インターネット取引に出会い、「こんなにも株取引が効率的になったんか」と衝撃を受けた。

大暴落の日に1万8000株を購入

昭和、平成、令和の相場を見てきた藤本さんは、今年8月5日、株価が大暴落した日のことを、1987年の「ブラックマンデー」になぞらえる。「値下がりの幅とか銘柄の数とかが似てたな。当時は気持ちが萎えてもうてね、資金もなかったし、まだ下がるんちゃうかって思ったら買われへんかった」と話す。

しかし、今年の大暴落では1万8000株ほどを購入している。なぜ、怖がらずに購入できたのだろうか…?「経験ちゃうかな。10年に1回くらいの感じ、また来たなーって感じに思ったんやね。怖い気持ちは、通り越してるわ。僕は50回も100回もやられているんですよ。勝ち続けるってことはあり得ないし、負け続けるっていうのもあり得ない。心を穏やかに持たんと。女房には『ここで買うのはあほや』って言われたけど」

話に耳を傾けていた奥さんがキッチンから微笑んで言う。「株は怖いよー。でも、私がどれだけ言っても聞かないから」

藤本茂さんの著書『87歳、現役トレーダー シゲルさんの教え  資産18億円を築いた「投資術」』(1760円)をダイヤモンド社から発売中。テクニカル分析に経験と勘を織り交ぜ、巨額資金を運用する機関投資家とも対峙する個人投資家の投資手法と生活の全貌を公開している。

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