Aさんは都内で夫と息子の3人で暮らす専業主婦です。そんなAさんの息子Bさんが大学3年生になり、来年の就職活動に向けて自身の進路を考えはじめました。Aさんとしては夫が大手大企業に勤めていることもあり、Bさんも大手大企業に勤めて欲しいと考えています。自分が専業主婦として子供の面倒を見て来れたのは、安定した大企業に夫が勤めていたからだと考えていたからです。
しかしBさん自身は、大企業に勤めたとしても多くの新入社員にもまれて頭角を現すのは難しいと考え、中小企業に就職したいと考えていました。採用される人数が限られている中小企業であれば、期待の新人として迎えられ活躍できるのではないかという考えです。
Aさんとしては安定した生活を送って欲しいという思いから、何度もBさんに大企業を勧めているのですがBさんは断固として考えを変えません。「俺は中小企業で働くんだ!」と言い張る息子との間で、口論に発展してしまうこともありました。
大企業に勤められるのならその方がいいというAさんの考えは間違っているのでしょうか。キャリアカウンセラーの七野綾音さんに話を聞きました。
ー大企業に勤める方が安定するというのは正しいのでしょうか
これから就職活動をしようとする子供の親世代からすれば、大企業に勤める方が安定するという考えを持っている人は存在します。しかしこの考えは実際の決算状況等の根拠に基づくものではなく、親が抱く大企業に対する漠然としたイメージに基づくものであることも多い印象です。
実際、過去にも安定していると思われていた大企業が、倒産したり買収されたりということは起こっています。イメージだけで大企業=安定と伝えたとしても、子供には伝わらないでしょう。
一方で、就職活動に臨む子供世代にも課題があると感じています。仕事は生きていくためにお金を得る手段でしかなく、お金を得るために仕方ないから就職活動をおこなうという意識の人が増えている印象を持っています。このような人の多くは、業界や会社を吟味せず、有名だからとか条件がいいからという表面的な理由で、会社を選んでしまっているように思います。
本来、就職は自分の力を活かせる会社を見つけて活躍していこうというポジティブなものだと思うのですが、活動に疲れて妥協してしまっている人も多いのが現状です。
ーBさんは期待の新人として活躍したいと言っています
Bさんは自分の意志で中小企業を選択し、活躍したいというビジョンを掲げています。この熱意は納得のいく就職活動をするうえでとても重要です。
因みに自己PRのPRは「Public Relation」の略です。よく自己PRの時間に自分の過去の実績や強みを一方的にアピールする人を見かけますが、本来の意味に照らし合わせると「公との関係性」について話さなければなりません。就職活動においては、その業界やその企業で自分の強みをどう活かして、社会にどのような影響を与えたいと思っているのかを語ることが重要です。
会社の規模にかかわらず納得のいく就職活動ができた人は、本来の意味での自己PRができていることが多いです。自分目線だけではなく会社の存在意義や社会の問題解決まで考えて、会社で自分はどんなことをしていきたいのか、社会のために何をしたいかを考えています。世の中にこんな影響を与えたいという熱い志望動機をもっている学生は、大企業でも中小企業でも求められる人材となっています。
よって、これから就職活動を迎える子供のいる家庭では、子供が社会に出てどのようなことをしたいのか、その仕事を通じて社会に対して何を成したいのかを聞いて掘り下げることが重要だと考えます。
◆七野綾音(しちの・あやね)キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント やりがいを実感しながら自分らしく働く大人を増やして、「大人って楽しそう!働くのって面白そう!」と子ども達が思える社会を目指すキャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント。