台風はなぜ予報”円”で表す?歴史を知ると理由がわかる!海外との違いも紹介

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台風情報では、台風の中心が到達すると予想される範囲(確率70%以上)を「円」で表示しています。過去に行った調査では、35%の人が予報円の意味を大きさや強さなどと誤解しているという結果(※)もあり、なぜ紛らわしい円で表示するのか、疑問に思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

台風の進路を100%確実に予測することは容易ではないため、「円」として誤差を考慮した表現がとられています。この台風の予報の「誤差」の表現方法は、昔から気象庁が頭を悩ませてきたことのひとつで、過去に何度か変更が行われてきました。

そこで台風情報の歴史を振り返りながら、今のかたちになった理由を読み解いていきましょう。また、日本以外の国ではハリケーンやサイクロンの予報をどのように表示しているかもご紹介します。

※台風情報の見方についての調査結果は、こちらの記事をご覧ください。


【1953年〜】進行方向の誤差のみを表現する「扇形」

日本でテレビ放送が始まったのが1953年(昭和28年)。この頃の台風の進路予報は、まだ今のような円ではなく、24時間後の台風の予想位置を「扇形」で示したものでした。
50代以上の方なら、懐かしい!と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

ただこの扇形の進路予報には、ある問題点がありました。それは、進行方向の予報誤差は表せても、速度の誤差が表せないということです。
それゆえ、速度には誤差はなく、まだ接近時刻ではないので大丈夫といったように、上陸・接近時刻が誤解されてしまうことが度々起こりました。

1953〜1982年5月の台風進路予報(扇形)


【1982年〜】進行方向+速度の誤差を表現する「予報円」が登場

方向だけではなく、速度にも誤差があることを表現できる方法はないかと考えられた結果、1982年(昭和57年)に、台風の進路予報は「扇形」から「円」に変わりました。
その時刻において、台風の中心はこの円の中のどこかにある可能性(当時は確率60%以上)が高いことを表しています。台風の進行方向に対して、円の前面が速度が速くなる場合、後面が遅くなる場合の誤差を表します。

しかしこの表示方法も問題点があり、円の中心の印が台風の中心位置であるように見えたり、予報円が暴風域に見えたりと、誤解が生じることがありました。
1985年(昭和60年)に台風13号が九州地方に接近・上陸した際には、予報円を暴風警戒域であると誤解した漁船が、円の周辺で操業していたために遭難するという事故も起こっています。

1982年6月〜1986年5月の台風進路予報(予報円)


【1986年〜】予報円に「暴風警戒域」を追加

1985年台風13号の遭難事故をきっかけに、翌年1986年(昭和61年)に再び台風進路予報の表示の見直しが行われます。
台風の中心位置に加えて、暴風警戒域も円で表示するようになりました。暴風警戒域は、台風の中心が予報円内に進んだときに、暴風域に入るおそれのある範囲を表します。

また円の中心が台風の中心であると誤解されることを避けるために、円の中心の印もなくなりました。

1986年6月以降の台風進路予報(予報円+暴風警戒域)

さらに2007年(平成19年)には、暴風警戒域を円ではなく、それぞれの円を囲んだ線(いわゆるコーンの形)でも表示できるように変更しました。
これは、台風が日本に接近した際、24時間先までの予報をそれまでの12時間間隔から3時間間隔とより細かく発表するようにしたこともあり、円が重なり合って見にくくなってしまうことを回避するためです。

またこのタイミングで、「必ずしも円の中心を通るわけではない」という解説や注釈を行えば、予報円の中心の印や中心を結んだ線を描いてもよいとして、円の中心の印が復活しています。

2007年以降の台風の進路予報と暴風警戒域の表示例


「楕円形」にするとより誤差の表現が的確になるという研究結果も

気象庁の気象研究所によると、予報円を「楕円」にすれば、より適切に予報の誤差を表現できるとしています。

台風の予報円の大きさは、少しずつ値をずらした複数のデータを使って台風の進路をシミュレーションし、それらの計算結果のばらつきによって決まります。
ばらつきが大きければ円は大きく、ばらつきが小さければ円も小さくなります。

中には速度はばらつきが大きいものの、方向はかなり定まっていると予想される場合や、その逆もあります。
ですが、「円」の場合、方向・速度ともに予報誤差の大きさは同じだけあると表現せざるを得ません。このため誤差を過大に表現してしまっている場合があるのです。

「楕円」であれば、方向と速度それぞれのばらつきに合わせて長軸と短軸を決めることができます。このため、円よりも楕円の方が適切に予報誤差を表現できるため、的を絞った進路予報にできるのです。

ただし、必ずしも台風情報を伝える方法が図とは限りません。文字や音声のみで伝える場合も想定されるため、楕円形を導入することはそう簡単ではありません。実用化にあたっては、まだ課題も多いようです。

<参考>
・気象研究所「応用気象研究部の川端康弘研究官・山口宗彦主任研究官の楕円形を用いた台風進路予報に関する論文が気象集誌論文賞に選ばれました」
https://www.mri-jma.go.jp/Topics/R02/021208/021208_kawabata_jyusyou.html

台風の予報円を円形と楕円形にした場合の比較(出典:気象研究所ホームページ)


【海外事情】アメリカやオーストラリアなどでは「コーン」形

さて、日本では見慣れた予報円、海外ではどうなのでしょうか?台風に限らず、ハリケーンやサイクロンなどの熱帯低気圧の影響を受ける各国の事情について見てみましょう。

まずはアメリカの場合を見ていきましょう。
最近は日本でも米軍合同台風警報センター(JTWC)の情報を目にする機会も多いですが、こちらは本来アメリカ政府機関が利用するもの。アメリカ国民向けにはアメリカ海洋大気庁(NOAA)の一部門である国立ハリケーンセンター(NHC)が発表するハリケーン予報が主になります。
NHCが発表するハリケーンの進路予報では、予報誤差を表すのに図のような「コーン」の形が使われています。この図では、黒線で囲われ白色で塗りつぶされた部分と白線で囲われ網掛けになっている箇所が該当します。なお前者は3日先まで、後者は4、5日目の進路です。

基本的な考え方は、日本の気象庁の円とその接線を囲む方法と同じで、台風の中心が到達すると予想される範囲の予報円を滑らかに結んでコーンを描画しています。ちなみに、アメリカでこのように一般向けに予報誤差を表示するようになったのは2002年からのこと。意外にも、日本と比べるとまだ最近のことなのです。

そのほか、オーストラリア(オーストラリア気象局:BoM)やインド(インド気象局:IMD)のサイクロン情報、韓国(韓国気象庁:KMA)や中国(中国気象局:CMA)のタイフーン(台風)情報などでも、熱帯低気圧の予想進路を表す方法として、現在は主にコーンが使われています。

先ほどもお伝えしたとおり、円であってもコーンであっても、台風の中心位置の誤差を表すものであってほぼ同じ意味合いを持ちますが、円の方がある時刻における中心位置をより詳しく表現していますし、一方でノロノロ台風のように円が重なり合ってしまうような場合にはコーンの方が見やすいでしょう。それぞれにメリットとデメリットがあります。
なおコーンの場合であっても、予報円と同様に、コーンの大きさはハリケーンやサイクロンの大きさ勢力を示していると誤解されることも多いようです。

アメリカ・ハリケーンの進路予報図(出典:NOAA/NHC)

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