9月といえば台風のシーズンです。日本では、年間約25個程度の台風が発生し、月ごとに見ると発生数、上陸数ともに8~9月が多くなっています。
ところで、日本では台風が、アメリカにはハリケーンが襲来するニュースを良く見聞きしますが、ヨーロッパにおいてはどうなのでしょうか?
この記事では、筆者が住むフランスを含むヨーロッパに台風が来るのかどうかについて、日本との比較を交えながら、気象学的観点から解説します。
また、「台風」「ハリケーン」「サイクロン」の違いや、過去にヨーロッパを襲った暴風雨についてもお伝えします。
日本に台風が来る理由とその発生条件
台風は、主に北西太平洋および南シナ海に存在する熱帯低気圧の一種で、台風が発生するためには、熱帯から亜熱帯海域の暖かい海水(26.5℃以上)が必要だと言われています。
太陽の熱で暖められた海水は蒸発して水蒸気に変わり、大気中に多くの水蒸気が含まれます。
この水蒸気は渦を巻きながら上昇し、上昇気流が発生します。上昇した水蒸気は上空の空気で冷やされて水滴になり、雲ができます。
強い上昇気流が発生していると、そこへ湿った空気が流れ込み、積乱雲が発生します。
水蒸気が水滴や雲になるときに放出した熱が、周りの空気を温めることで上昇気流が強まり、気圧も下がります。
これを繰り返すことで積乱雲はさらに発達し、台風(熱帯低気圧)へと成長していきます。
日本は西太平洋の西端に位置しており、台風の発生源である熱帯の暖かい海域に近接しているので、頻繁に台風がやってきます。
また、夏になると台風が発生する緯度が高くなります。
台風は西へ流されながら北上しますが、日本が位置する北半球の中緯度地方に来ると、上空では西から東へ強い風(偏西風)が吹いているので、台風は高気圧のまわりを回って、速い速度で日本の方向へ向かって来るのです。
ヨーロッパには台風(ハリケーン)が来ない?その理由とは
日本が台風の影響を強く受ける一方で、ヨーロッパが台風の影響を受けることはほぼありません。そもそも、大西洋に面するヨーロッパに来るとすれば「ハリケーン」となりますので、その意味でも「台風」の影響をうけることはないと言えるのですが、もっと気象学的な観点から考えてみましょう。
その大きな理由は、ヨーロッパの地理と気象条件にあります。
まず、ヨーロッパ近海は、日本付近と比較してやや高緯度に位置しており、海水温が低いです。熱帯低気圧の発生・発達には26.5℃以上の海水温が必要とされますが、真夏でもその温度に到達することはありません。そのため、ヨーロッパ近海で熱帯低気圧が発生してそのまま上陸…というケースは考えにくいのです。
では、遠くの熱帯海域で発生した熱帯低気圧がはるばるやって来る…というケースはどうでしょうか?
これも考えにくいケースとなります。
というのも、ヨーロッパは大西洋の東側に位置しており、ハリケーンの主な発生源であるカリブ海近辺からの距離が遠すぎるのです。そのため、熱帯低気圧はヨーロッパに到達する前に衰え、消滅するか、温帯低気圧に変わってしまうことが多いのです。
台風・ハリケーン・サイクロン その違いは海域と風速に
「台風」とは、北西太平洋および南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速が約17m/s以上になったものを指します。
一方、北大西洋、カリブ海、メキシコ湾および東太平洋に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速が約33m/s以上になったものを「ハリケーン」を呼びます。
また「サイクロン」とは、ベンガル湾やアラビア海などの北インド洋に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速が約17m/s以上になったものを指します。
このように、台風とハリケーン、サイクロンは、最大風速の基準が違うものの、同じ気象現象のことで、それぞれの地域によって異なる呼び名です。
大西洋に面するヨーロッパに来るとすれば「ハリケーン」ということになりますが、ヨーロッパの海域は海水の温度が低いため、ハリケーンの発生も稀です。
過去には、大西洋で発生したハリケーンが、北大西洋を越えてヨーロッパに到達したことがありますが、非常に珍しいケースといえます。