不倫した妻から離婚を切り出された、40代男性から相談がありました。不自由のない生活を送らせていたはずなのに、裏切りを重ねられ、しかもこれから財産まで分けなければならない状況に、どうしても納得がいかないようです。さまざまな形で「別れ」に向き合ってきた、看護師で僧侶でもある玉置妙憂さんが回答します。
【相談】不倫をした妻が離婚を申し出たことが許せない
結婚9年目、私と妻、5歳の娘の3人家族です。昨年、妻が不倫されていることがわかり、不倫相手に慰謝料の請求をしました。妻はパートで働いていましたが、その職場で若い男と不倫関係になりました。別れさせる時に「今後一切妻に近づかないこと」と念書を書いたので、現在関係はないと思われます。
妻とは元の関係に戻れれば他に何も望むことはなかったのですが、妻が娘を連れて家を出てしまいました。
行先は不明ですが、妻の父から連絡があったので実家に帰っているのだと思います。義父から詳しいことは何一つ伝えられず、「離婚してほしい。無理なら弁護士を立てる」ということで、妻と直接コンタクトをとることすらかないません。
おそらく妻自身が不倫をしたことは、義両親や娘には隠しており、私に非があるように伝えているのだと思います。
私は仕事が忙しく、妻に家事や育児を任せっきりだったことは認めますが、それも家族の将来を思ってのことでした。高額でしたが妻が望む都内のマンションを購入し、娘の教育費の積立もしていました。休日は育児もしていましたし、何不自由ない生活を送らせていたという自負があります。
養育費や財産分与の話はこれからということでしたが、娘を私立のエスカレーター式の学校に通わせたいと話していたので、算定表よりも高い養育費を請求されることになると思います。そもそも私は離婚をしたくないので、弁護士を立てることになるでしょう。
法的なことは弁護士に任せるとして、気持ちの整理が全くできていません。不倫をしたのは妻なのに、なぜ私だけが全てを奪われなければならないのでしょうか。どうしても納得がいきません。怒りと絶望を往復する毎日で、気がおかしくなりそうです。(40代・男性)
【玉置さんの回答】あなたが執着しているものは何?
もし、私があなたの母親だったら。やっぱりいくつになっても自分の息子は可愛いので、「なんて女だ!」って怒ると思う。「不倫とは、なにごとだ!」ってね。
でも、同時に、「しまった!可愛い息子に大事なことを教え忘れていた!」とも思うわ。
いい? 人間の心は、元には戻らないってこと。覆水盆に返らず。それこそ可愛い盛りの小さな娘さんを抱えながら、他の男に目がいったんだからよっぽどよ。その心が、元の鞘に収まるわけがないでしょう?
しかも、不倫相手の若い男に慰謝料を請求して、念書書かせたって…。ちょっと、小さかったよね。離れた心を取り戻したいなら、たとえ見栄はってでも大きなところを見せないと。「帰ってこい。これまでのことは一切不問にする。もう二度と他の男なんかに目がいかないよう俺が変わる」くらい、欲しかったな。
それからね、妻さんがご実家で、ご自分に都合がいいように言うのはあたりまえ。またそれを信じて、娘を守ろうとするのも、あちらのご両親としてはあたりまえです。それに腹立てちゃダメよ。あなただって、こうやって話すときには、やっぱり自分に都合のいいように話すでしょ? 人間って、たぶん誰でもそうだから。そのへんはわかってあげないと。
しかもね、可愛い息子よ。「何不自由ない生活を送らせていた自負」、ここにあなたの小ささが凝縮しちゃってるのよ。「何不自由ない生活を送らせてもらっている」と感じるのは相手ですからね。あなたではない。あなたが勝手に自負しちゃうから、ボタンがどんどん掛け違っていってしまったんだと思うなあ。
煮えくり返る思いは、分かるよ。考えれば考えるほど、ドロドロと煮詰まっていくでしょう。辛いよね。
でも、高い養育費を請求されるとか、なぜ私だけがすべてを奪われなければならないんだとか、その考えの先に爽やかな未来が見えますか? どう? 私には見えないな。
それなのに、なんで離婚したくないんだろう? そこに執着させているものはなに? プライド? 損得? 勝ち負け? 少なくとも「愛」ではないような気がするよ。
愛しい息子よ。人生はね、納得できないことだらけなんです。誰かが納得できたとしたら、その裏で、きっと誰かが納得できていないの。そんなもん。あなたが無理矢理、妻さんを手元に連れ戻したところで、その先に何があるのか。少し頭を冷やして、考えてみてほしい。
バカな子ほど可愛いって言うけど、あなたには、誰よりも幸せになってほしいと思ってる。まだ40歳だもん。「すべてを奪われた」だなんて、なに言ってるの! なにも奪われてやしないよ。いいかい。「すべて奪われた」なんて考えるから、すべてが無くなっていくんだよ。
今はまだ難しいと思うけど、いつの日か「いい経験だった」「ひと回りもふた回りも大きくなった」と思ってほしい。怒りや絶望は、万病のもとだからね。すっぱり捨てて、楽になってほしい。それができないから困っているんだって? もう、なにを言ってるの。あなたがそうしようと思っていないだけだよ。思えば、成る。いいかい、幸せは笑顔のところにしか来ないんだからね。
◆玉置妙憂(たまおき・みょうゆう)/看護師・僧侶。二児の母。専修大学法学部卒業後、法律事務所で働く。長男が重度のアレルギーがあることがわかり、「息子専属の看護師になろう」と決意し、看護学校で学ぶ。看護師、看護教員の免許を取得。夫のがんが再発。夫は、「がんを積極的に治療しない」方針をかため、自宅での介護生活をスタートする。延命治療を望まなかったため、自宅で夫を看取るが、この際にどうしても、科学だけでは解決できない問題があることに気づく。夫の“自然死”という死にざまがあまりに美しかったことから開眼し出家。高野山にて修行をつみ高野山真言宗僧侶となる。その後、現役の看護師としてクリニックに勤めるかたわら、患者本人、家族、医療と介護に携わる方々の橋渡しとして、人の心を穏やかにするべく、スピリチュアルケアの活動を続ける。訪問スピリチュアルケアを通して、患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)とQOD(クオリティ・オブ・デス)の向上に努める。非営利一般社団法人「大慈学苑」をつくり、代表を務める。課題解決型マッチングメディア「リコ活」でコラムを執筆。
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