首輪から解けた1本の糸が、若猫の命を切り裂いた…獣医師が「綿100%」の首輪をすすめる理由

小宮 みぎわ 小宮 みぎわ

茶白のこむぎちゃんは肥大型心筋症が見つかり、定期的に来院され、検査をしています。今日はとってもかわいい首輪をされていたのでお聞きすると、飼い主さんの手作りで綿100%だそうです。

綿100%の首輪はあまり見かけないですよね。しかし、私の個人的な見解では、猫の首輪は綿100%一択です。それは以前、化学繊維製の首輪をしていた若猫の事件を経験したゆえの答えです。

   ◇   ◇

まだ1歳だったその若猫は、食欲不振で診察に来られました。少し食べるときもあるのですが、しばらくすると吐き出すといったことを繰り返していたそうです。血液検査をしても、レントゲンやエコーでも異常は見つかりませんでした。食欲増進のお薬や胃腸を動かすお薬などを使って、いろいろな治療をしても食べませんでした。少し食べる数日間もあったのですが、「食べた食べた!良かったね!」と飼い主さんと喜び合ったのもつかの間、すぐにまた食べないモードに戻ってしまうのです。

血液検査やレントゲン・エコー検査は、1回の検査で全てがわかる訳ではありませんので、数回検査をさせていただいているうちに1カ月が経とうとしていました。そこで、飼い主さんを説得して試験的にお腹を開けてみることになりました。すると、胃から腸にかけて、細い細い、長い長い糸が入っており、腸に食い込んでいることが判明しました。

ご経験があると思いますが、羊羹やバター、茹で卵などは、糸をピンと張ることで切れますよね…そんな感じです。糸は1カ月の間に腸を切り込み、腸粘膜深くに埋まっていました。

その糸を、端から丁寧にほぐして腸粘膜の中から掘り起こしていく作業には、相当な時間がかかりました。そして、作業の間に若猫の心臓は止まってしまいました。若猫はこの1カ月間ほとんど食べられず衰弱していたので、長時間の麻酔に耐えられなかったのでしょう。蘇生処置をするも、残念ながら全く反応はありませんでした。執刀医は糸を全て取り去ったのちに、いつも通りにお腹を縫い閉じました。

後にわかったことですが、その糸は、首輪を縫っていた化学繊維の糸でした。若猫は、ちょっと大きめな首輪をつけていたので、首輪が気になってガジガジ咬んでいるうちに糸が解けて出てきて、それを飲み込んでしまったようです。しかし、とても細い糸なので、飼い主さんは首輪から解けたことも気が付かなかったのでした。また、化学繊維の糸は細くても強度があります。お腹の中に残り続け、若猫の腸を切り込んでしまいました。

悲しい出来事でした。このような事故は滅多にないことですが、「もし、この糸が化学繊維ではなく、綿だったら…?」と私は考えます。

天然素材の綿や羊毛の糸は、細いとすぐに切れてしまいますので、ある程度の太さが必要です。そのため、首輪に使われている場合でも、解けたことに気づきやすいです。そして万が一、飲み込んだとしても、胃や腸の中で胃酸や消化酵素によって溶けてなくなる…つまり消化されてしまう可能性が大です。

とはいえ、綿の主成分はセルロースですので、猫の胃腸であっという間に消化されることはありません。しかし綿は糸の中でも一番切れやすい脆い性質を持ちます。胃腸の中でプチプチと切れてくれれば、そのまま便と混ざって体外に排出されるかもしれません。

なお、消化されるという例を挙げると…犬では「鶏の骨を飲み込んでしまった」という救急事案がちょくちょくありますが、食道や胃腸の壁に裂けた骨が刺さっていないのであれば、救急ではありません。鶏の骨は、胃の中に数時間とどまっている間に胃酸と消化酵素で溶けてしまい、骨の中にある豊富な栄養はその犬の栄養となります。

しかし、近年売られている猫の首輪の多くは、化学繊維の「ポリエステル製」です。ポリエステルは安価で強度もあり、シワになりにくく、黄ばみにくく、すぐに乾きます。一方の綿は全てその逆です。比較的高価で、シワになりやすく黄ばみやすく乾きにくい、縮みやすい素材です。そのため、市場に出回っているヒトの衣類も、約半分がこのポリエステル繊維と言われています。

ですが、私は猫に首輪をお付けになるのであれば、素材は綿100%をお勧めします。首輪の生地は綿100%だけれども縫い糸は化学繊維というものもありますので、確認なさってくださいね。

とはいえ、首輪の素材は綿100%と言っている獣医師は、私くらいですし、首輪の素材にまで注意を払う飼い主さんも、そうはおられないと思います。先日マルシェで綿100%の首輪を探していたら、店員さんに不思議がられました。

私「綿100%の首輪を探しているのです」
店員「アレルギーか何かですか?」
私「いえ、違います」
店員「綿100%は無いのですが、そうじゃなくてもかわいいのがたくさんありますよ」

確かにかわいい首輪がいっぱいあり、目を奪われました。猫の飼い主さんは、自身の猫チャンに一番似合う、一番かわいい首輪を選びますよね。

ちなみに首輪の金具ですが、私であればプラスチックは選びません。プラスチックは咬むと割れて粉々になり、それを食べてしまってもどこにあるのかレントゲンには写らないのでわかりません。金属製であれば咬んでも割れません。万が一飲み込んでも、お腹のどこにあるのかレントゲンで良くわかるからです。

◆小宮 みぎわ 獣医師/滋賀県近江八幡市「キャットクリニック ~犬も診ます~」代表。2003年より動物病院勤務。治療が困難な病気、慢性の病気などに対して、漢方治療や分子栄養学を取り入れた治療が有効な症例を経験し、これらの治療を積極的に行うため2019年4月に開院。慢性病のひとつである循環器病に関して、学会認定医を取得。

まいどなの求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース