愛知県には変わった形をした横断歩道がある。通常、横断歩道は道路の向こう側へまっすぐ描かれているが、斜めに描かれているという。衛星写真で空から見ると、その様子は一目瞭然だ。その名も「鋭角横断歩道」。なぜ斜めに描かれているのか、愛知県警察に聞いた。
斜めにすることで「運転者の視野角を縮小」
愛知県警察へ「斜めに描いている理由」を聞くと、「横断歩道を横断する歩行者と、右左折車との事故を防止する」ためだという回答が返ってきた。実際に斜めに描くことで、事故防止にどのような効果を得られるのだろうか。
「横断歩道が鋭角に設置されているため、運転者が横断者を確認する視野が狭くなり、横断者を発見しやすくなります。運転者の視野角を縮小することで、運転者の注意力に余裕が生じることになり、結果として交通事故抑止に繋がると考えております」
つまり運転者が、広い範囲を見なくても済むように工夫されているわけだ。
上の写真は、ドライバー目線から見た鋭角横断歩道だ。斜めに描くことで、端から端までの見通しが良い印象を受ける。
鋭角横断歩道が初めて設置された場所は愛知郡東郷町にある音貝小学校西交差点で、2012年10月のことだった。
「横断歩道を横断する歩行者と右左折車との事故を防止する目的で、当時の県警の担当者と県警の交通死亡事故抑止アドバイザーで交通工学の専門家(豊田工業高等専門学校環境都市工学科名誉教授・荻野弘氏)が調査研究を重ね、鋭角横断歩道の設置に至りました」
路面に描く際の角度は、道路に対して「概ね12度」だそうだ。また、これが愛知県独自の取り組みなのか、他県へノウハウを提供しているかを尋ねたところ、「把握していません」とのことだった。
鋭角横断歩道を設置したら本当に人身事故が減った
鋭角横断歩道は、2023年度末時点で県内32カ所に設置されており、事故防止の効果が表れているという。
32カ所のうち信号機の新設時に鋭角横断歩道とした6カ所を除いた26カ所で、交差点および交差点付近で発生した歩行者・自転車に関連する人身事故の発生件数を、設置前後の各1年間を調査した結果、設置前は17件だったのが、設置後は7件にまで減少していた。
ただし、鋭角横断歩道だけの効果かといえば、そうではない要素もあるという。
「鋭角横断歩道に改修した交差点のほとんどで、道路標示の補修、信号灯器のLED化など他の事故抑止対策も行っているため、その総合的な対策による効果も交通事故が減少した要因のひとつと考えております」
ちなみに、この調査で信号機の新設時に鋭角横断歩道とした6カ所が除かれた理由は、信号機を新設する際は原則として横断歩道も一緒に設置されるからである。つまり他の26カ所は鋭角横断歩道に「描き直された」のに対し、新設の6カ所は新規に鋭角横断歩道が設置されたため、同じ条件で比較できるデータが存在しないのだ。
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先述のように、鋭角横断歩道は県内32カ所に設置されており、その場所は次の表にまとめられている。
愛知県警によると、すべての横断歩道を鋭角横断歩道に改修する計画はないようだ。交差点に関連する事故や車両の通行実態などを踏まえて検討するという。