日本舞踊家で俳優の藤間爽子 伝統と新しいものの融合に黙考 「祖母が亡くなったとき、日本舞踊のスイッチが入った気がします」

磯部 正和 磯部 正和

 日本舞踊家で俳優の藤間爽子。2021年に三代目藤間紫を襲名し、紫派藤間流家元として活動する一方、俳優として現代劇で快活な女性を演じることもある。ベストセラー作家・佐藤愛子のエッセイを映画化した最新作『九十歳、何がめでたい』では、草笛光子演じる愛子の孫娘・桃子を好演した。“古き良き”と“新しいもの”の共存を説いている作品でもある本作。同じように伝統芸能と今を生きる藤間は、その融合をどのように考えているのだろうか。

 小学生のころから日本舞踊の舞台を踏むなど、幼少期から伝統芸能に向き合ってきた藤間。本作で演じた桃子は、祖母である愛子が便利な世の中になりすぎたことに「スマホが行き渡ると、人間バカになる。総アホーの時代が来る」と嘆く横で、スマホを操るなど世代間ギャップを体現する。

 “古き良きもの”と“新しいもの”の融合。「すごく難しい問題ですよね」。考え込んだ藤間は「無条件に古いものや考えが良いわけでもないと思うんです。美化され過ぎるのも違うと思うんです。時代は変わっていくもので、その時々で流行も違ってくるから」とつぶやく。

 続けて「古いものを切り捨ててしまうという風潮も良くないと思うんです」とも。「だからこそ難しいですよね」容易に結論の出ない難問に答えを見出そうとする。

 藤間自身も幼少期から祖母・初代藤間紫の影響で日本舞踊という伝統の道を歩んできた。「小さいころは習い事の一環のような感じで、やりたいとかやりたくないとか、あまりそういう意思はなかったんです」と語り、「そのなかで素敵な部分などを聞いても、その当時は理解できなかったこともあったんです。悩んだことも葛藤したこともありました」と振り返る。

 続ける中で、見えてきたことがあったという。

「続けられる環境があったということは感謝なのですが、何事もやっていくうちに気持ちが変わることってあるんですよね。だからこそ、人生の先輩の声には耳を傾けるべきと思っています。そこから自分なりに考えて結論を出しても遅くはないと」

 伝統と革新、年配者と若者などと対立構造で語られることが世代間の問題。藤間は「やっぱり自分の何倍も生きている方の話というのは、まず聞いた方がいい。そこから若い世代はジャッジすればいい。聞かずにシャットアウトしてしまうのは絶対にもったいない」と語る。

 先輩たちの教えを胸に続けてきた日本舞踊。そのなかで魅力もどんどん増してきた。「本来三日坊主なタイプなんですよ」と笑っていた藤間だが、日本舞踊も俳優業も続けることで、見えてくるものがあったという。

 「日本舞踊に関しては、祖母が亡くなったとき、少しスイッチが入った気がします」と語った藤間。何か新しいことを始めるときは、まず先輩たちの話を聞く。そしてその時に気が進まなくても、「もしかしたら好きになるかも」と思って続ける。もちろん続けても「嫌いなものは嫌いなのかもしれないですけれどね」と笑うと「それでもまずは続けることが大切なのかも」と語る。

 そうすることで先輩から受け継いだものを、自分なりに新しく魅力的なものに変えられる。こうしたトライ&エラーが、“古き良き”と“新しいもの”を融合させる秘訣かもしれない。

 「人の心は昔も今も変わらないと思います。同じ人間なんだから」と藤間。「そういった大切なものがしっかりと描かれている映画だと思います。老若男女、心に刺さる作品です」と出演作を語った。

映画『九十歳。何がめでたい』は6月21日より全国ロードショー

 

まいどなの求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース