今ある時を、ただひたすら楽しむ。そう考え、前向きな日々を刻んでいる子がいる。彼の名前は、石原洸太郎くん(通称:こうちゃん)。こうちゃんは両親に見守られながら、SNSで闘病の様子と前向きな言葉を発信。その命との向き合い方に、大人は大切なことを教えられる。
小学三年生の頃に小児がんを発症
こうちゃんは脳腫瘍の一種で、脳内に悪性腫瘍が発現する小児がん「頭蓋内胚細胞腫瘍」と闘っている。発症は、2022年4月のこと。当時、小学三年生になったばかりだったこうちゃんは水泳の大会を終えた後、突然「物が二重に見える」と言った。
花粉症や目の傷つき、もしくはゲームのやりすぎなのだろう。当初、両親はそう考え、眼科や内科を受診。しかし、原因は分からなかった。
すると、しばらく経った頃、夜中に頭痛や嘔吐が見られ、総合病院へ。検査の結果、病名が判明。水頭症であることも発覚した。
医師から病気を告げられた時、両親を襲ったのは、我が子が亡くなるかもしれないという悲しみと、なぜ気づいてあげられなかったのかという自責。
「様々な感情が駆け巡り、我慢しても喉の奥が熱くなり、涙が止まりませんでした」
周囲に笑顔を配りながらの闘病生活
そこからスタートした2年以上の闘病生活の中で、こうちゃんは6回手術。放射線や抗がん剤治療も何度か受けた。
正直、大人でも弱音が漏れる治療だ。だが、こうちゃんは一度も弱音を吐かず、医療関係者にお礼を伝えながら治療を受けてきたそう。
もとから優しい性格ではあったものの、こうちゃんは病気の発症後、より優しくなり、悟りを開いたような言葉を口にして両親に様々な気づきを与えた。そこで、両親はこうちゃんが口にする言葉をSNSで発信するように。
ユニークで、どこか温かいこうちゃんの言葉は似た境遇に置かれている人の心を明るく照らしている。
こうちゃんが発した言葉の中で、両親の胸に、特に深く刺さったのは「人生は楽しむためにある」という、こうちゃんらしいスローガンだ。
「約2年間、こうちゃんにとっては辛く痛く苦しい毎日だったはず。付き添う親でさえも、内心は大丈夫だろうか、今後どうなってしまうのかという不安が24時間消えず、こうちゃんの前で明るく振る舞えないこともありました」
だが、そんな中、こうちゃんは「人生ってね、楽しむためにあるんだよ。一度きりの人生、楽しまないともったいないよ。毎日楽しんでいこうね」と言ってくれたそう。その言葉があったからこそ、両親は前を向くことができた。
「私たちを悲しみのどん底から引き上げてくれた気がしましたし、本当にその通りだと思いました。先々のことを考えてもしょうがない。今この時、今日という日を、こうちゃんと全力で楽しんでいこうと決意しました」
現在、こうちゃんは在宅治療中。学校の友だちとオンラインで会話をし、家族とはゲームを楽しみ、1日を過ごしている。
「親を心配しているのかと思い、『言いたいけど、言わないことがあるんじゃないの?言っていいんだよ』と言っても、『大丈夫だよ』と笑顔で返してくれるんです」
「何事も最後まで諦めない」を胸に生きる
家族が大好きなこうちゃんには、もうひとつ好きなものがある。それは、祖父母から教えてもらった、ダジャレ好き。
今回は、ダジャレを好きになった理由や自分の病気をどう受け止めているのか尋ねたところ、ハっとさせられる考えを聞かせてくれた。
――ダジャレはどうして好きになったんですか?
こうちゃん:ジイジが教えてくれたの。俺ね、ジイジやバアバたちが大好きなの。大好きな人が教えてくれたから、ダジャレも大好きになったの。
――他にも理由はある?
こうちゃん:ダジャレを言うと、みんなを笑顔にできるの。笑顔になると周りの人も笑顔になるでしょ?そしたら幸せな気持ちになるでしょ?笑顔や幸せがどんどん広がっていくんだよ。
――こうちゃんは自分の病気のことをどう思っていますか。
こうちゃん:んーわかんない。でも、何事も最後まで諦めないこと。諦めたら、今までの頑張りがもったいないからね。
――こうちゃんが今頑張っていること、これから頑張りたいことを教えてください。
こうちゃん:俺が頑張ってることなんてないよ。いつも周りの人が頑張ってくれてるだけだよ。これからも一緒。
――毎日を明るく過ごすにはどんなことが大事だと思っていますか。
こうちゃん:やっぱり、人生は楽しむためにある、って思うことかな
自分の命とまっすぐ向き合うこうちゃんは、家族の「太陽」。こうちゃんの周りには、常に誰かの笑顔がある。
「子どもの大病と闘う中、親や兄妹、ご近所さん、職場関係者の方、医療関係者など様々な人たちが支えてくれました。中でも、こうちゃんの親友家族や病院で出会ったお友達家族の優しさ、思いやり、支えがなかったら倒れていたと思います。そうした支えも、こうちゃんの人徳の賜物だとも感じました」
なお、優しいこうちゃんは妹を持つ兄としても、自宅で優しさを見せているよう。自分と周り、両方の命を大切にするこうちゃんの未来が明るいことを切に願う。