最近、犬猫の健康に対する意識が高まり、手作りごはんにされる方も増えていて良いことだなぁと思っております。
ですが、気になるのが犬猫には塩をやったらアカンという都市伝説。人間にも犬猫にも他の動物にとっても、塩はなくてはならないものです。そう説明しても、ご自身の作った犬猫用ごはんに入れる塩を、まるで毒を入れるかのように怖がる方がおられます。塩分が欠乏した結果、驚くような重大な病気になってしまうこともあります。人間でも、塩を怖がりすぎて摂らずに脱水になり、救急搬送される高齢者が後を絶たないそうです(水を摂らないから脱水するのではなく塩分を摂らないと脱水するのです!)。以下、「塩は必要」という説得に使う「事実」についてご紹介いたします。
「敵に塩を送る」という言葉は、戦国時代の逸話が元になっています。戦国時代、甲斐(現在の山梨県)の国を治めていた武田信玄の領地は、内陸部で海がなく、したがって当時は塩が手に入りにくく大変貴重なものでした。(昔、日本では海水を濃縮させて塩を得ていました。)一方の仇敵である上杉謙信は越後国(現在の新潟県)を治め、当時はそれぞれ「甲斐の虎(武田信玄)」「越後の龍(上杉謙信)」と呼ばれて恐れられていました。その上杉謙信が、武田信玄に塩を送ったというお話です。
塩分を摂らないと血圧が上がらないので、力が入らなくなります。低血圧の人は朝起きにくく、起きても体がだるいという症状を訴えます。極端になると、立ち上がることもできなくなりますので、これでは戦争どころではありません。仇敵に塩を送るという行動は、上杉謙信がいかに義を重んじる武将であったかがわかりますね。
家畜の牛さん達のおうちには、塩の塊(固形塩)がいつも置いてあり、みんなでベロベロ舐めています。この塊には鉄、銅、亜鉛、コバルト、マンガン、セレン、カルシウムなどのミネラルが含まれているものもありますが、食塩は1kg中に966g含まれているので、ほぼ食塩です。この固形塩が近くにない場合、牛達は床(一般的に土やコンクリートなどで出来ています)や鉄柵を舐めて塩分を摂ろうとします。
熱帯雨林にいるオラウータンは生涯木の上で過ごしますが、ときに地面に降りてきて、塩分の多い土を食べます。オラウータンの主食はドリアンと言う果物ですが、ドリアンを始めとした果物や野菜にはナトリウムがあまり入っていません。ですから、果物や野菜を主食にする動物はどうしても塩が不足気味になるので、自ら塩を摂るための工夫をしているのです。
先ほどの牛もオラウータンも栄養学なんて学んでいませんが、本能がそうさせるのですね。逆に人間はGoogle先生に塩を控えよう!と言われて病気になるなんて…! 情けない現実です。
ちなみに、市販のドライフードにどれぐらい塩が入っているかを計算してみましたが、100グラムあたりに入っている塩は、人間が飲む味噌汁一杯分(1.2グラム)より、すこし少ない程度でした。
もちろん塩をどれぐらい入れたらいいかは、年齢や持っている病気、運動量などによって変わりますが、一般的に手作りをされている方は、「ちょっと薄いなぁ」って感じるくらいのお味噌汁を作るイメージで塩分を入れたら良いのではと思います。
お魚を丸ごとを与えるときは、魚の中にすでにいい具合の塩が入っているので、そんなに塩を入れなくても良いかも知れません。一方で、鶏肉や豚肉、牛肉などを与えるときは、それらは血抜きをしてあるので塩分が不足気味ですから、塩を足しましょう。そうです!血液の中には赤血球、白血球、血小板以外にいろいろな種類のミネラルがたくさん入っているのです。だから血液は栄養学的に大切なものです。ドラキュラが血を欲していたのは…もしかしてミネラル不足だったのでしょうか?
私たちのような陸に住む動物の祖先は、海から陸に上がるときに、海の環境を体内に封じ込めました。それが細胞の周りにある組織液や血管の中にある血液なのです。体内の海の環境維持するためには、塩を摂らねばなりません。
◆小宮 みぎわ 獣医師/滋賀県近江八幡市「キャットクリニック ~犬も診ます~」代表。2003年より動物病院勤務。治療が困難な病気、慢性の病気などに対して、漢方治療や分子栄養学を取り入れた治療が有効な症例を経験し、これらの治療を積極的に行うため2019年4月に開院。慢性病のひとつである循環器病に関して、学会認定医を取得。