雌鶏は1歳になる前くらいから毎日1個ずつ、卵を産むようになるそうです。米ワシントン州に住むクラーク家にいたオレオちゃんもそうでした。小屋の中に用意された卵を産むための巣箱に毎日、毎日。でもいつからか、ほかの雌鶏には見られない珍しい行動をするようになったそうです。
「1年に2回くらいなのですが、小屋の外の目立たない場所に卵を産んで、10個くらい溜まると座り込んで温めるようになったんです」
そう教えてくれたのは、奥様の佳世さん。産む場所は瓦礫の下だったり、薪割り小屋の中にあるハシゴの影だったり。毎回変わりましたが、いつも頑張って探さなければ見つけられない場所だったとか。「子どもを守るために最善の場所を選んでいたんでしょうね」(佳世さん)
無精卵と有精卵をすり替えて…
卵を温め始めると、オレオちゃんは小屋に戻らなくなり、立ち上がるのは3日に一度、10分~20分程度。その間に急いで水を飲み、ごはんを食べて、また卵のもとへ戻ることを繰り返していました。
「そんなことをしていたら痩せてしまいます。でも、ごはんをあげようと思って近づくと、卵を守ろうとして恐竜のような悲鳴をあげるので…」(佳世さん)
その姿はまさに“母親”。ただ、オレオちゃんは母親にはなれませんでした。なぜなら、そのときクラーク家には雄鶏がいなかったから。つまり、卵はすべて無精卵だったのです。
オレオちゃんが見せる母性に胸を打たれた佳世さんは、ある決断を下します。それは、オレオちゃんが3日に一度、卵から離れたときに有精卵とすり替えること。卵はご近所の方から12個買ってきたそうです。
「うまくいくか分かりませんでしたが、オレオは気づく様子もなく、また卵を温め始めました。するとある朝、ピヨピヨと鳴き声が聞こえたんです」(佳世さん)
7羽のヒナがかえり、残念ながら命を落とした子もいたようですが、オレオちゃんは待望の“子育て”を始めます。
「卵を温めているときはキツイ顔をしていたのに、子育て中は何とも言えないやさしい顔になりました。ヒナたちに上に乗られても、突っつかれても怒りもしない。見ていて癒されましたね」(佳世さん)
買ってきたヒヨコを“乳母”として子育て
その後もオレオちゃんは産み落とした卵を温める行動を続けました。母親にしてあげるには、また有精卵と入れ替えなければいけません。ただ、そうすると雄鶏が生まれる可能性があります。実際、最初に入れ替えたときは3羽の雄鶏が生まれたそうです。クラーク家ではそれ以上、雄鶏を飼うつもりはなかったので、今度はメスのヒヨコを買ってきて、用意した木箱の中で対面させてみました。
「最初、ヒヨコたちは怖がって逃げたし、オレオも落ち着かず、卵のある場所へ戻りたがっていました。でもそのうち、1羽のヒヨコがオレオに近づいたんです。オレオが水を飲むと、そのマネをしたり。そうしたことを繰り返すうち、両方が落ち着いてきたので、そのヒヨコをオレオの羽の下に入れてみました。するとじっと温めてくれたんです。今だ!と思い、他のヒヨコもオレオの下に入れると…羽を膨らませて10羽のヒヨコが入るスペースを作ってくれ、見事に“乳母”を務めてくれました」(佳世さん)
ヒヨコが羽の下から顔を出すと、やさしく中に入れてあげていたというオレオちゃん。その目は、有精卵からかえったヒナを育てていたときと同じだったそうです。
クラーク家は最近、引っ越すことになり、ニワトリを飼えなくなったため、大切に育ててくれる新しい飼い主さんを見つけました。オレオちゃんとその“子どもたち”は、新しい家族のもとで元気に暮らしているそうです。