2月の京都大学の入試会場(前期日程)に大量の立て看板が登場しました。アニメ「推しの子」の主題歌「アイドル」をもじった「浪人はとびきりの愛だ」や、漫画「呪術廻戦」のセリフをネタにした「俺は浪人生(お兄ちゃん)だぞ!!!」など、浪人あおりネタで受験生の心を解きほぐしました。
長らく京大の名物となってきたタテカンですが、屋外広告物条例違反だとして京都市から大学が行政指導されたことを受けて、京大はタテカンの取り締まりを強めており、約50枚の立て看板はすべて撤去されました。なぜ規制が強まる中で、ユーモアに富んだタテカン掲示を続けるのでしょう。立て看板を作る学生サークル「シン・ゴリラ」に聞きました。
京大の立て看板の大半を作っているのは、「日本最大の立て看サークル」を標榜する京大サークル「シン・ゴリラ」です。
ーシン・ゴリラが何枚くらい立て看板を作ったんですか。
「試験日にあった立て看板は合計50枚ほどで、そのうち、シン・ゴリラが関係しているのは7-8割くらいだと思います。塗料は主に水性ペンキを使っています」
「今年評判が良かったものは、漫画『ワンピース』の赤犬が京大当局を揶揄(やゆ)ったものや、最近流行っている『ポケモンスリープ』、『呪術廻戦』などをネタにしたものでした」
ー浪人ネタが多い印象ですが、制作者は浪人経験がある京大生でしょうか。
「京大生が多いと思いますが、シン・ゴリラはタテカンを愛する全ての人に門戸を開いておりますので、様々な方に参加していただいております。(制作者全体における)浪人生の割合は、特に調べてはおりませんので把握しておりません」
ーアニメや時事ネタをオマージュした立て看板が多数並んだ印象です。
「基本的に(立て看板の制作は)構成員のアイデアに任せております。コンセプトとしては、受験生にリラックスして欲しいというのと、大学受験に向けて、これまである程度生き方を管理されてきたような受験生たちに対して、大学というのは自治に基づき自律性が担保されている空間であるのだ、という所を感じ取ってもらいたいという気持ちもあります」
大学周辺の立て看板については、京都市が2017年に屋外広告物条例に違反し、「景観を害する」として、京大を行政指導しました。京大は2018年に立て看板規程をつくり、大学周辺のタテカンを撤去しました。このような大学当局の撤去について「表現の自由を侵害している」として、損害賠償を求める訴訟に発展しています。
今回の立て看板については、タテカンを撮影している学生を京大職員が見とがめ、「お前が作ったのか」と威圧してきたといいます。
ー政治思想性のない立て看板が大半だったようですが、京大の取り締まりについてどう感じていますか。
「今回は政治的トピックを扱ったタテカンはあまり多くありませんでしたが、シン・ゴリラはパレスチナでの虐殺やウクライナでの戦争、『国葬』や大学改革などに反対するようなタテカンも立ててきました」
「政治的なトピックであれそうでないものであれ、タテカンというのは市民や学生といった、権力や発信力を持たない人々の表現の手段として有用な役割を果たしています。それを当事者間との議論無しで一方的に規制した上に、懲戒処分をちらつかせながら現場で弾圧を加えるということは、許し難い事だと思っております」
ー懲戒処分のリスクがある中、なぜ立て看板の制作を続けるのでしょう。
「タテカン運動を続ける理由としては、以下が主なものになります。
・立て続けることが規制に対して最も有効な手段だと思っていること。
・仮に裁判などを通じてタテカン規制が撤廃されたとしても、タテカン文化が継承されていなかったら、以前のように百万遍や東一条にタテカンが立ち並ぶ光景は見られないこと。
・タテカン運動を通して、それに関わる、ないしはそれを見た人々に自由を感じ取ってもらい、この息苦しいような世の中で豊かな活動を行うきっかけになればと思っていること」
一方、京大は「学内規定にもとづき、看板を立てかけないよう注意した」としています。