珠洲の半壊家屋で味噌をなめ生き抜いた地域猫を保護「地震は怖い、みんながいるここがいい」→保護主の家族に

岡部 充代 岡部 充代

 能登半島地震で被災した1匹の黒猫が、倒壊しかけた家屋から救助され兵庫県にやって来ました。名前は「すずくん」。甚大な被害を受けた石川県珠洲市出身で、「復興に向けてがんばっている珠洲の方たちの希望になってほしい」という願いが込められています。

 保護したのは兵庫県尼崎市を拠点に活動している動物愛護団体『つかねこ』代表・安部壮剛氏。発災直後から何度も被災地へ足を運び、迷子猫の捜索や被災猫のレスキューを続けています。

 

 安部代表が3回目の支援に行ったときのこと。珠洲市は右を見ても左を見ても倒壊した家屋ばかり…悲惨な状況でしたが、奇跡的に在宅避難できていたおばあちゃんから、こんな話を聞きました。

「近所に黒い子猫が3匹いたんだけど、震災から一度も見ていない。鳴き声も聞かなくなった。この辺を通る人たちの足にまとわりつくような懐っこい子たちだったんだけど…」

 震災からすでに2週間以上たっており、「正直、もう生きていないだろうと思った」と安部代表は言います。「もっと早く来られたら良かったんやけど、最初の頃は珠洲まで来られなくて、輪島で活動していたから」。安部代表は心苦しそうにおばあちゃんに説明しました。

 ところが!捜索依頼のあった他の猫を捜していたとき、半壊した家の中から子猫の鳴き声が聞こえてきたのです。家主の許可を得て中に入ってみると、食いちぎった“ちゅーる”の空き袋や、なめたと思われる味噌の袋が。しばらくすると、家の奥から黒い子猫がひょっこり現れました。お腹がすいていたのでしょう、最初は少し距離を取っていましたが、すぐに安部代表の足元にすり寄ってきて、おとなしく抱っこされたそうです。

 

すずくんの今世のミッション

 保護したとき、すずくんは便秘でお腹がパンパンに膨れ上がっていましたが、兵庫に連れて帰り、適切な医療を受けて栄養のある物を食べさせてあげると、徐々に元気になりました。「今も猫風邪気味ですが、他の保護猫たちと仲良く暮らしています」。そう話すのは、安部代表と一緒に活動している奥様の実紀さん。すずくんの名付け親です。

 実紀さんも2度、被災地支援に行きましたが、その後は兵庫に残り、一日に何十件と届く捜索依頼を整理し、現地にいる代表に正確な位置を示した地図や道路情報などを送るオペレーター役を務めながら、被災地から保護した猫たちのお世話をしています。『つかねこ』が捜索や保護に携わった迷子猫、地域猫はすでに100匹超。夫婦二人三脚で多くの命を救っているのです。

 

 すずくんは当初、新しい家族を見つけて譲渡する予定でした。実際、譲渡会に参加したこともあります。でも、“本猫の希望”により安部夫妻の家の子に。

「アニマルコミュニケーションですずくんの気持ちを聞いてもらったんです。石川に戻りたいか、関西で新しいおうちに行きたいか。すると、『石川は怖い。みんながいるここがいい』と。地震で怖い思いをしたからですよね。その言葉が胸に刺さりました。別のコミュニケーターさんによると、すずの今世のミッションは、つかねこのような保護団体があることを、もっと世の中の人に知ってもらうことだそうです。きっとこうして記事を書いてもらうことも、そのミッションを果たすために、すず自身が引き寄せたのでしょう」(実紀さん)

 弱く、小さな命を救う活動を続ける『つかねこ』を通じて、すずくんはとてつもなく大きなメッセージを伝えてくれています。

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