脱走した四国犬が子ども12人を襲撃 飼い主の法的責任は【弁護士が解説】

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石井 一旭 石井 一旭

群馬県伊勢崎市で、家から脱走した2歳のオスの四国犬が、小学生9人を含む12人に次々と噛みつき、怪我をさせたという事件が報じられました。このような場合、飼い主はどのような責任を負うのでしょうか。

まず、民事上の責任、つまり損害賠償の責任があります。

民法718条1項は、「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う」と定めています。本件の場合、四国犬の飼い主が、怪我をした人たちの治療費や通院費、仕事を休まざるを得なくなった休業補償、精神的苦痛に対する慰謝料等の損害を支払わなければならないことになります。

民法718条1項にはただし書きがあり、「動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたとき」は、賠償責任を負わない、と定められています。報道によれば飼い主もどうやって自宅から脱走したのかわからないと述べているそうですが、庭にノーリードで放していたということのようであり、四国犬という大型の犬の管理方法として「相当の注意」を払っていたとは判断されないと思われます。よってただし書きの適用はなく、原則どおり賠償責任を取らなければならないでしょう。

こういった思いもよらぬ事故に対応するため、犬を飼う場合、特に大型犬や、凶暴な犬種を飼う場合は、加害事故を補償する個人賠償責任保険への加入は必須です。保険に加入していなければ、自腹で、12名すべての損害を賠償しなければなりません。今回の飼い主が保険に加入しているかは不明ですが、負傷した被害者に十分な補償がされることを望むばかりです。

次に刑事上の責任が考えられます。

四国犬は大型犬であり、人に危害を及ぼす可能性がある犬です。脱走すれば犬は興奮状態となり、人が噛まれて怪我をする可能性もあることは飼い主であれば予見可能と言えるでしょう。よって脱走した状況次第では、過失傷害罪(刑法209条1項)が成立し、30万円以下の罰金又は科料に処される可能性があります。

もっとも同罪は告訴がなければ公訴提起できない、親告罪と呼ばれる犯罪類型ですので、被害者の方々が告訴をしなければ刑事事件にはなりません。この観点からも、先に述べた、被害者に対する十分な補償が求められている事件と言えます。

またこれとは別に、「群馬県動物の愛護及び管理に関する条例」第9条第1項では、「飼い主は、飼い犬を常時係留しておかなければならない。」と定められており、これに該当した場合は、5万円以下の罰金に処すとされています(同法22条1号)。

ただし条例9条1項但書第2号は「人の生命、身体又は財産に対して侵害を加えるおそれのない場所又は方法で訓練する場合」には例外的に係留しなくてもよい、とされていますので、今回放し飼いにしていた自宅が、「侵害を加えるおそれのない場所」と言えるかどうか、自宅の状況(塀の高さやスキマの有無、門扉の形状等)がポイントになるでしょう。

なお、9日までの報道によると、飼い主の男性は、脱走した四国犬の登録届け出をしておらず、狂犬病の予防接種も受けさせていなかったといいます。

狂犬病予防法4条1項は、犬の所有者は犬を取得してから30日以内に犬の登録を申請することを定めています。また同法5条1項は、犬の飼い主に毎年1回の狂犬病予防接種を義務付けています。いずれも、違反した場合は20万円以下の罰金となります(同法27条)。報道が真実であった場合は、飼い主にこれらの罰金が科される可能性も考えられるで
しょう。

制御できない状態の犬は、人や他の犬、動物に危害を加える可能性があります。小型犬であっても、パニックになって人に噛みつけば、咬傷による感染症や破傷風を生じ、思わぬ大事故になることがあります。しつけ、リードの徹底はもちろん、万一の場合に備えて、ペットによって生じた被害を補償する個人賠償責任保険やペット保険には加入しておくようにしてください。

◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。

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