飼い犬が吠えただけで、人やほかの犬に近づいただけで…重大事故に! 飼い主が高額賠償を負った衝撃事例3つ【弁護士が解説】

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石井 一旭 石井 一旭

飼い犬や飼い猫が他人やペットを噛んでしまい怪我をさせてしまうと、飼い主は相手方に損害賠償責任を負います。小型犬であっても口腔内には雑菌が多く生息しているため、噛まれれば傷口が化膿しやすく、広範囲に炎症を生じることもあり、油断は禁物です。

しかし、たとえ犬が噛みついたりせず、吠えただけ、接近しただけでも、飼い主が賠償責任を負担することとなってしまったケースもあります。いくつか事例を紹介しましょう。

▽1 大阪地方裁判所 平成18年9月15日判決

犬に驚いて自転車が転倒した事故で、飼い主が被害者に約400万円の賠償を命じられたケースです。原告(被害者)が自転車で被告(飼い主)の家の前を通りかかったところ、ペットの犬が吠えて飛びかかったため、被害者は驚いて転倒し、左母趾を骨折し、後遺症も生じてしまいました。

飼い主は、犬を鎖でつないで自宅前でオシッコをさせていただけで、被害者に飛びかかったり押し倒したりしたわけではなく、被害者が自分で転倒しただけだと主張して争いました。

しかし、判決は、犬が体長1mもある猟犬(判決文上、犬種は不明です)であったことに加え、本件事故現場が幅員2mと狭い道路であったことから、飼い主が犬を自宅前の道路に放つ際には、犬が通行人に飛びかかったりしないよう自己の支配下におくべき注意義務がある、としました。

その上で、飼い主には、自宅前に人や自転車が通りかかっていないかどうか確認しないまま漫然と犬を連れて出て、被害者に飛びかかるような様子で吠えかかるのを許した過失があり、その結果、驚いた被害者が、避けようとして自転車の運転操作を誤って転倒することは容易に想像できるから、犬が被害者や自転車に接触していなかったとしても、被害者が転倒して被った負傷について飼い主は責任を負う、と示されました。また、状況からして被害者が驚愕・転倒することもやむを得ない結果であって被害者の落ち度とは言えないとして、過失相殺(被害者の落ち度を考慮して賠償を減額すること)も認められていません。

▽2 最高裁判所 昭和58年4月1日判決

こちらも犬に驚いて自転車の操縦を誤り負傷した事件ですが、犬は体長40センチのダックスフンド、負傷した被害者は7歳の少年です。川沿いの散歩道でリードを外されたダックスの接近を怖がった少年が自転車の操縦をミスして護岸壁から転落し、左目を失明してしまったという事件です。

第一審の地方裁判所は、犬がいわゆる愛玩犬であって、吠えもせずに近づいただけであることから、事故の原因は少年の運転ミスにあるとして、原告の訴えを棄却しました。

しかし第二審の高等裁判所は「子供にはどのような種類のものであれ、犬を怖れる者があり、犬が飼い主の手を離れれば本件のような事故の発生することは予測できないことではないから、犬を飼う者は鎖でつないでおくなど常に自己の支配下においておく義務がある」として、少年側に90%の過失相殺を認めつつ、飼い主の賠償責任を認定し、最高裁もこの結論を支持しました。

被害者の被害の大きさに配慮した面もあるように思われますが、たとえ愛玩犬であっても極力リードを外すべきではない、という裁判所の考え方を示した判決だと言えるでしょう。

▽3 大阪地方裁判所 平成27年2月6日判決事件

これは、犬が犬を驚かせたケースです。

散歩中の15歳のチワワが、飼い主のところから逃げ出したシェパードに突進・接触されて死亡してしまいました。獣医師の診断によれば、チワワには外傷はなく、衝突の衝撃ではなく急激に興奮したことによる心不全がチワワの死因となったとのことです。

シェパードの飼い主は、シェパードを厳重に管理していて逃げ出した事実はないとして争いました。

裁判所は、本件事故後にシェパードの首輪にかかっているスナップと鎖部分をつなぐリングキャッチのネジが外れていたことなどから、事故時間帯にシェパードの首輪が外れていたことが推認されるとし、その他の事情を含めてシェパードの飼い主の管理責任を認め、葬儀費用・弁護士相談料・慰謝料合計22万8700円の支払義務を課しました。

   ◇   ◇

今回は3つのケースを紹介しました。いずれも、犬が相手に噛みついたわけではないにもかかわらず、管理責任を問われたケースです。

世の中には犬を苦手とする人や、犬の接近にショックを受ける人・動物がいるということを心に留めていただき、散歩の際にはリードをつなぎ、自宅でも玄関や門扉を閉めて、犬をしっかり管理しておくことが重要です。さらに、万一飼い犬が重大な危害を加えてしまった場合にも対応できるよう、飼い犬の加害行為も保証の対象としている個人賠償責任保険への加入をお勧めしたいと思います。

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