ダウン症の23歳娘、自分で選んだアルバイト先は…? 変化に驚く母の思い「小さな自由と幸せのある毎日を」

宮前 晶子 宮前 晶子

「1日3.5時間勤務を週5日。最賃保証の普通の時給。体力的にも精神的にもいいバランスだなと感じる。ダウン症を持って生まれても、いろいろな働き方があるし、いろいろな生き方がある。ダウン症が何かより、それをもっと知らせていきたい。」

ダウン症の23歳の娘・みのり(仮名)さんが保育補助のアルバイトを始めて5ヶ月経った際に、母親としての思いを綴ったまさみさん。

特別支援学校高等部に通っていた数年前は「卒業したら?コナン君が好きだから、警察か、探偵になりたいなぁ。科学者もいいかも」と話していましたが、現在は、アルバイトに勤しみ、充実した日々。

働くようになってからの変化、就労に至るまでに取り組んだこと、親としての思いを取材しました。

今までに見たことのない表情に

21番目の染色体が1本多いダウン症候群(ダウン症)で、知的レベルは小学校低学年ぐらいのみのりさんは、現在、東京23区内にある保育園で週3日10時から16時まで働いています。

主な仕事は子どもたちの世話や掃除など。働き始めてからは家族と過ごす日常にもさまざまな変化が現れてきました。「よく気がつくようになりましたね。部屋の掃除や洗濯物などの家事に目が向くようになって助かります。自分のお金で、文房具など欲しいものも買うようになりました」。今年のお正月には、年下のいとこにお年玉を手渡していたそうです。

自宅から職場への所要時間は片道1時間半。電車の乗り換えや駅構内の移動もあるため、通い始めの頃はまさみさんも同行しましたが、今はひとりで通勤。ときには、途中の駅で下車して本屋さんに行くことも。「人との関わりや行動範囲が広がりました。こうやって、親の知らない彼女自身の世界が広がっていくんだなぁと感じています」。

何よりも帰宅後の表情が「すごくいい表情!」だそうです。

仕事見学や実習を通して自己分析&就活

今では仕事を楽しんでいるみのりさんですが、特別支援学校高等部に在籍中は、卒業後に自分が何をするのか?どうしたいのか?がぼんやり。面談で先生に「お仕事どうする?」と問いかけられても「仕事かぁ…」という反応でした。そこで、自分が向いていること、やりたいことを見つけるために福祉型カレッジへ進むことに。

「カレッジと言いますが、法律上は学校ではなく自立訓練や就労移行を行う福祉施設で、学び方も個々に合わせていろいろ。娘は4年1ヶ月通いましたが、職場見学などさまざまな取り組みをするなかで、 “あっ、私も仕事しなくちゃ”という意識が芽生えてきましたね。さらに、“こういう仕事ができる”“この作業は苦手だな”といったように得意なこと、不得意なこともわかってきました。いわゆる、自己分析を行いました」。

保育園を働く場に選んだのはみのりさん自身。「娘は学童保育に通っていたこともあり、子どもを預かるという環境を身近に感じていました。それに、小さい子のお世話や掃除をするのが好きなんですね。それが、保育園で働くということに結びつきました」とまさみさん。

そこでまず、みのりさん自身が通っていた保育園で2ヶ月間、ボランティアとして保育補助を経験。職員たちから「子どもたちがみのりお姉さん、みのりお姉さんと言ってなついていますよ」と言われたことは大きな自信になりました。

その後、現在の職場が職員を募集していることを知り応募、インターンとして働いた後、本採用に。「3ヶ月めには、娘自身もここで働きたいと強く思うようになったそうで、社長との面談でその意志をしっかり伝えたと聞きました」。

社会福祉士や保育士の資格を持ち、それぞれの現場に携わってきたまさみさんから見て、みのりさんの働きぶりは「親バカかもしれませんが、私なんかより、ずっと子どもに寄り添うのが上手。小さな子と接する時は子どもの自分で、大人と接する時は大人の自分で、と接し方を変えていると本人が話していました」。

現在の職場の人たちからも「多様性を謳う企業として障害者を雇用する必要があるから雇ったのではありません。みのりさんと一緒に働きたいと思い、決めたんですよ」との言葉があったそう。

一人ひとりがその人らしく輝ける世の中に

ともに働く仲間を得て、順調に社会に自分の居場所を作るみのりさんを誇らしく思う一方で、「油断は禁物。ちょっとした変化も見逃さないようにしています」。ただし、あれこれ口を出すのではなく、みのりさん自身の気持ちを尊重してサポート。願いは、この先も周囲の人に一緒にいたいと思われ、笑顔が消えない日々を過ごすことです。

「自分の行きたいところに行きたい時に行き、食べたいものを食べる、そんな小さな自由と幸せのある毎日を送れるようになって欲しい」と考え、みのりさんが小さい時から少しずつ少しずつできることを積み重ねてきたまさみさんは、ある思いを抱いてきました。

「これまでもたびたび、ダウン症のある“スペシャル”な方は話題になってきました。それはそれで素晴らしいのですが、“障害があるから一芸に秀でなきゃいけないの?みんなスペシャルじゃなきゃいけないの?”と感じたことも確かです。健常の方でもなかなか到達できない場所を目指さなきゃいけないっていうのは、どうなんだろうって。話題になった方々は、親御さんのプロデュース力が素晴らしいことが多くて、“親が頑張らないといけないのかなぁ” “プロデュース力がない親にはプレッシャーだなぁ”とも。親をはじめとする周囲の人の強力なプロデュースがなくても、一人ひとりが得意なことや楽しくできることを発揮できる社会がいい。みんなが輝けたら、と思うんです」。

■まさみ|社会福祉士×コーチ×ダウン症者の母 X @masami_okaachan
■Instagram @masami.ikka

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