人間だけでなく、動物もまた避難を余儀なくされている「令和6年能登半島地震」。被害の大きかった石川県七尾市能登島にある「のとじま水族館」から動物を引き受けた施設に取材しました。
能登半島の湾、七尾湾に浮かぶ能登島にある「のとじま水族館」は、イルカやアシカのショー、一体型アクリル水槽による海中にいるような展示の「のと海遊回廊」などが人気。日本海側の水族館で、ジンベエザメを飼育していた唯一の水族館でした。
今回、断水に加え、複数の水槽でろ過設備の停止や水漏れなどの被害が発生し、生育環境が悪化。ジンベエザメ館の水槽は水位・水温が低下(水位は加水により回復)、循環ポンプが水没し、ろ過設備が停止。9日にはオスのハチベエが、10日にはメスのハクが死亡しました。X(旧Twitter)では「悲しい」「辛い」「ジンベイザメかわいそうに」「苦しかったろうに」など2頭の死を悼む声が上がっていました。
スタッフも被災したであろう大変な最中に手配を進め、4日にゴマフアザラシ2頭とコツメカワウソ2頭が「いしかわ動物園」に。6日にカマイルカ2頭とゴマフアザラシ1頭、14日にウミガメ8頭が福井県坂井市にある「越前松島水族館」へ移送。また、17日には富山市ファミリーパークがフンボルトペンギン10羽を受け入れています。
大変な状況で、可能な限りの動物たちをピンチから救うため迅速に尽力した各施設。今回は、「いしかわ動物園」と「越前松島水族館」に、「のとじま水族館」からの移送、受け入れ後の様子についてたずねました。
緊急時のため準備や、打ち合わせの時間なし
同県南部に位置する能美市にある「いしかわ動物園」の松島園長によると「のとじま水族館」から要請を受けたのは1月3日。要請を受けた翌日4日の午前8時に動物園を出発し、11時半に到着、ゴマフアザラシとコツメカワウソとともに17時半頃に戻ったそうです。
「地震発生後4日目とあって、非常に混雑しており、たどりつくのに3時間半かかりました。いつもの倍以上の時間です」と、いしかわ動物園の松島園長は振り返ります。
「移送は動物にとってストレスがかかってしまいますので、通常は檻やケージに入ったり、出たりさせて慣れるように準備します。しかし、今回はその段階を踏めず不安はありました。ゴマフアザラシの1頭目はケージにうまく入ってもらえたのですが、2頭目は時間がかかってしまい、水族館の職員が手助けしてくれたおかげで無事進めることができました」
福井県の北部、坂井市にある「越前松島水族館」には、水族館やイルカのふれあい施設の相互協力のための組織「日本水族館協会」を経由して、同じく1月3日に受け入れの要請がありました。
受け入れ可能な生き物はあるかとたずねられ、「飼育できるスペースや、対応できるスタッフ数、準備しているエサにも余裕がないと受け入れることはできません。その上で、数と種類を決定しました」と、越前松島水族館の松原館長。
移送は1月6日に実施。道路事情により移送が長引いたそうですが、「七尾警察署に事前に大型車でもスムーズに進める道や道路情報を教えて頂き、渋滞で苦労するということはありませんでした。6日には『いしかわ動物園』が救援物資を持って一足先に着いていましたので、伺った当日の道路情報をもとに通る道を選びました」。
しかし、やはり通常の状況とは大きく異なり、「本来動物を受け渡したりする時は十分時間をとって綿密な打ち合わせをしたうえで行うのですが、今回は緊急避難で時間がなくて最短で移送することが大事でした」と、緊張感のある状況であったことが感じられます。そして、さらに要請に応じて、ウミガメ8頭を14日に受け入れています。
全国から感謝の声が続々
両施設ともに、被災した動物の受け入れは初めてのこと。しかも、「いしかわ動物園」では、ゴマフアザラシは以前から飼育していましたが、コツメカワウソの飼育は初めて。そんな状況ながらも、松島園長は、「他の施設で飼育したことのある職員が複数人いて経験の面からも自信を持って受け入れることができました。当初はエサを食べてくれるか、排泄がきちんとできるかが心配でしたね。2日目からエサを食べるようにはなりましたので、安心しました」と話します。
松原館長も同じく「不安なく受け入れることができました。大変なことも現地のスタッフに比べたらありません」と、力強い言葉です。
Xでは、「良かったです」「ありがとうございます」「よろしくお願いします」などのコメントが続々届いたほか、「県の災害対策本部員会議で動物園への移送について発表されてすぐ、『のとじまさんから来るんですよね』とたずねてくるお客さんが数人いました。お電話での問い合わせも2、3件ありました。反応は早かったです」(松島園長)。「ニュース、報道等で流れておりますので、『のとじま水族館』の動物のファンの方からお礼の言葉を頂いたり、『頑張ってください』と励ましの言葉を頂いています」(松原館長)
「動物の健康を第一に飼育」
さて、受け入れから約1週間経った今、避難した動物たちはどんな様子なのでしょうか。
「いしかわ動物園」に避難したゴマフアザラシとコツメカワウソの4頭は、落ち着いた状態とのこと(1月11日時点)。種類ごとに寝小屋(動物の寝室)で飼育されていて、「のとじま水族館」から来た動物だけ別に分けられているそうです。「越前松島水族館」でも、1月12日の時点も同じく、分けて飼育しています。
「個体として狭い寝小屋にいるのは健康的に良くないので、馴れてきた段階で大きなプールで泳いでもらおうかなとは思っています」(松島園長)。「健康的に問題はないのですが、初めての施設に入れたばっかりで、施設にも、スタッフにも慣れてもらっている最中なので、お客様の前での展示は行ってない状態です」(松原館長)と、どちらも、不慣れな環境での動物たちの状態を慮って基本的に公開は予定していません。
「動物の健康を第一に飼育していきたいと思います。また、のとじまさんから『飼育できるようになりました』との連絡がございましたら、健康な体でお返ししたいと考えております」(松島園長)。また気になる人々に向けて、1月16日にはいしかわ動物園公式サイトで受け入れたコツメカワウソのヨツバとレベッカについて近況を報告しています。
「一刻も早く能登半島で被災されたみなさま、『のとじま水族館』のみなさまの生活が安全で平穏なものになるよう祈っています。もう一度『のとじま水族館』が動物を飼育できるような環境が整うまで、お預かりした動物が健康で元気に過ごせるように大事に飼育していきたいと思います」(松原館長)
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「のとじま水族館」は、当面の間の休館を発表しており、最新情報に関しては公式サイトで発表予定となっています。状況を踏まえて、現地への直接の問い合わせはお控えください。同館への見舞金は(公社)日本動物園水族館協会(JAZA)を通じて、1月16日からはじまり、一部の水族館や動物園でも募金を受け付けています。
「いしかわ動物園」も「越前松島水族館」、また新たに受け入れたばかりの「富山市ファミリーパーク」は、通常通り営業中。現在公開されている生きものたちに会いに行くことで、避難してきた動物や受け入れた施設の応援になります。
■「のとじま水族館」への見舞金
https://www.jaza.jp/storage/jaza-news/Ps2FTy4F3oLnU0UMgHO5xMlay331gclPdAeMqlQG.pdf
■「いしかわ動物園」のX公式アカウント https://twitter.com/ishikawazoo_jp
■「いしかわ動物園」の公式サイト https://www.ishikawazoo.jp/
■「越前松島水族館」のX公式アカウント https://twitter.com/echiaqua
■「越前松島水族館」の公式サイト
https://www.echizen-aquarium.com/
■富山市ファミリーパーク https://www.toyama-familypark.jp/
■「のとじま水族館」のX公式アカウント
https://twitter.com/notoaqua_jp
■「のとじま水族館」の公式サイト
https://www.notoaqua.jp/
■一般社団法人 日本水族館協会の公式サイト https://www.j-aqua.org/
■石川県 災害対策本部員会議 https://www.pref.ishikawa.lg.jp/saigai/202401jishin-taisakuhonbu.html