印刷のプロも「かっこいい」とうなる『いいちこ』の駅ポスター 「キラキラ、箔押しかと思ったら…」「印刷の無限の可能性を感じる」

太田 浩子 太田 浩子

 クリスマスの時期に駅に掲示されていたキラッと光るポスターが気になった人もいるかもしれません。パイナップルのような実がついた木(※)をツリーに見立てて、「MERRY CHRISTMAS」のオーナメントをぶら下げた写真なのですが、全体的にキラキラしていてかなり目立っていました。(※実はパイナップルではなく、沖縄など熱帯に生育するアダンの木です)

 そのポスターは、印刷や紙、デザイン関連の書籍をつくる『デザインのひきだし』編集長の津田淳子さん(@tsudajunko)も惹きつけました。

「いいちこのB全ポスター。文字が金なので「こんな広い面積に箔押し?」と近くで見てみたら、銀の紙に白+CMYKを刷って、文字以外の部分の銀紙を隠蔽しているようでした。」

 こんなコメントともにXに写真を投稿した津田さん。ポスターを拡大した画像を見ると、全体的にストライプになっていますが、文字の部分のみペタッとしていてストライプが見えません。津田さんに詳しいお話を聞いてみました。

印刷のプロが毎回うなる、「いいちこ」のポスター

──津田さんも思わず立ち止まってしまうようなかっこいいポスターだったのですね。

 いいちこのポスターはいつもデザインがすばらしく、貼り替えられるたびに楽しみに見ています。そんななか、遠目でこのポスターを見たときにアダンの写真が印象的で、さらに「MERRY CHRISTMAS」という文字が金色だったので「こんな大きなポスターに箔押し!?」と思いました。というのも、箔押しという印刷加工技術は、大きな面積にきれいに押すのが難しいのです。なので箔押しなのか近づいてしげしげと眺めました。

──箔押しではなかったのですか。

 箔押しではなく銀色の紙に白を刷り、その上からアダンの写真などを色で印刷。「MERRY CHRISTMAS」という文字部分には白が印刷されておらず、金に見えるように銀色の紙の上に黄色と紅が刷られていたのがわかりました。さすがにこうした大きなポスターを長年つくられてきているからこそだなと、感動しました。

──もう一度接近して見てみたら「写真が走査線状になってるんじゃなくて、下の白刷りが細いストライプで入っていた」とコメントされていました。

 写真部分の下地に白を全面刷りしているにしては、ポスターを見る角度によって全体的にキラリと輝度感あるようにも見えたのと、最初に見たとき、じっくり見ると写真がストライプ状になっているなと思っていたんです。

 そこで翌朝、もう一度近づいて見てみたら、写真をストライプ状に刷っているのではなく、下地に刷られた白がストライプ状になっているのがわかり、そのおかげで全体的に少しキラリとして見えるのかと、あらためて感動しました。

「いいちこ」を製造販売する三和酒類に話を聞きました

 いいちこのポスターは、毎年、月ごと12枚+クリスマス1枚がデザインされて駅に掲示されています。電鉄会社によって異なりますが、今年のクリスマスシーズンのポスターは12月16日から22日に掲出されている場合が多かったとのことです。

 ポスターはアートディレクターの河北秀也さんのデザインで、1984年から作られています。麦焼酎「いいちこ」が主張せずにそっと置かれた風景が多く、ポスター内の空気がこちらに漂ってくるようなデザインが印象的です。いいちこを製造販売する三和酒類(大分県宇佐市)の担当者さんにお話を聞きました。

──今回のクリスマスシーズンのポスター印刷は、どのようなものだったのでしょうか。

 津田様がおっしゃる通り、ベースの紙は「メタリックユポ」という、アルミが蒸着された、銀メタリックの紙です。この紙に、コピーやロゴの部分を除いて、ストライプ状に隠蔽率の高いオペークホワイトを敷きます。これによって、光るところと光らないところができ、その上に印刷された写真が、淡い光を放つような演出をしています。一方で、文字などは津田様がご指摘のように、紙のメタリックが透けることにより、金色や他色でもメタリック感を表出できます。

──クリスマスのポスターは、特別にキラキラした印刷にされているのですか?

 月毎のポスターも、より美しい仕上がりをめざし、紙の種類、版数(CMYK+特色や蛍光色など)を毎回考えて印刷しています。80年代当初のクリスマスポスターではまだ使っていたり使っていなかったりですが、90年代に入ってからはほぼこの印刷手法です。また、クリスマス以外でも同じ手法を使うことはあります。

──そうなのですね。珍しい手法なのでしょうか。

 毎回考えて印刷しており、その中の一つの手法として出てきたものです。技術は30年以上も前にできていたものですが、版数が多く、コストもかかりますので、一般的ではないかと思います。

 たとえば、今年のものはCMYK+オペークホワイト+ロゴ+コピーの7版で、通常のCMYKに比べ、3版多くなります

──難しい印刷なのですか?

 印刷自体は技術の組み合わせであり、特に難しいということはありません。あえて言えば、実際に現物を見ていただかないと、そのよさが伝わらないことでしょうか。

──たしかにお送りいただいた画像では、ポスター全体が持つ迫力や煌めきが伝わりにくいですね。

 クリスマスポスターは、月の後半、1週間だけの掲示ですが、これを機に、毎回のポスターも心待ちにしていただければ幸いです。また、過去からのポスターすべては公式サイト(https://www.iichiko.co.jp/design/poster/)でご覧いただけますので、お楽しみくださいませ。

 津田さんも「駅貼りポスターが少なくなっている昨今、河北秀也さんがデザインされているいいちこのポスターは、毎回静謐で美しく、毎日通っている駅に貼られるのをこれからも楽しみにしています」と話されています。

注:CMYKとはC(Cyanシアン=青)、M(Magentaマゼンタ=赤)、Y(Yellowイエロー=黄色)、K(Key plateキープレート=黒)の4色でカラー印刷の基本色です。これにほかの版色をプラスすることもあります。

■「デザインのひきだし」(書籍一覧) https://www.graphicsha.co.jp/list.html?cat=4&child_cat=22

■三和酒類 ホームページ https://www.iichiko.co.jp

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