人間の趣味やお金もうけとして使われる繁殖犬。多くは、望まない妊娠・出産を繰り返しその生を終える犬生をおくります。繁殖犬は運命を察し、何かを望むことさえ諦め、愛されることを知らずに死んでいくように映ることもあります。
行き場を失ったワンコたちを保護しサポートをし続けてきた福岡県のボランティアチーム、わんにゃんレスキューはぴねす(以下、はぴねす)では、こういった繁殖犬の命も数多く救ってきました。2023年秋に保護したシェトランドシープドッグの血が入ったメスのあいちゃんもそのうちの1匹ですが、保護当初のその体はボロボロでした。
元繁殖犬で瀕死の状態で保護されたあいちゃん
あいちゃんは九州のある繁殖場で子犬を産まされ続けてきました。
適切な処置もされておらず、保護当初、あいちゃんのには大量のノミ、鞭虫(べんちゅう)と回虫と条虫だらけで、重度の貧血も患っていました。はぴねすスタッフは、すぐにあいちゃんを動物病院へと連れていき輸血も行いました。獣医師の判断から10日間の入院をすることになりました。
懸命な治療が実り、退院後はあいちゃんの表情が柔らかくなり、スタッフの家に連れて帰ってからもご飯をいっぱい食べ、部屋の中を元気に歩き回ってくれるようになりました。
「良かった。本当に良かった。これからもっともっと元気を取り戻そうね」とあいちゃんに声をかけるスタッフでしたが、それから数日後には嘔吐が続き、次第に食欲がなくなりました。あいちゃんの歯茎は真っ白になっています。
急いで動物病院へと向かいました。再び診てくれた獣医師によれば、貧血の数値(ヘマトクリット値)が低くなっているとのこと。鞭虫が再発しているのか、ボロボロの胃や腸が完全に治っていないからなのか、免疫性の病気の可能性があるとも言います。あいちゃんは再び入院。スタッフはそばにいてあげられないことをもどかしく思いつつも、いったんは獣医師に任せ帰宅しました。
「命にかかわる危険がある。輸血が必要だ」
はぴねすの活動は非営利のボランティアです。スタッフには本業があり、それと並行してワンコの保護活動を行っています。
スタッフは昨晩のあいちゃんのことが心配で、本業の仕事が終えた後、一目散で動物病院へと向かいました。そこでのあいちゃんは昨晩よりも多少は元気そうで、消化器サポートのご飯をパクパク静かに食べていました。「良かった。いっぱい食べて元気を取り戻してね」と願うスタッフでしたが、しかし貧血の数値は下がる一方だとも。
いったん家に帰ったスタッフでしたが、翌日また仕事中に連絡が入りました。聞けば「ヘマトクリット値が10まで低下し、命にかかわる危険がある。輸血が必要だ」とのこと。それを聞いたスタッフの職場の人も、「すぐに病院に向かったほうが良い」と言ってくれスタッフは早退し、いったん家に戻った後、すぐさま病院へと向かいました。その際、供血犬として 助手席に同行したのはスタッフの家で暮らす保護犬のユキというワンコ。あいちゃんとの血液が合うかどうかはこの時点ではわかりませんでしたが、まずは連れていくことにしました。
保護犬が別の保護犬の命を救った
動物病院についたユキは、あいちゃんと血液が合うかどうかの検査・クロスマッチテストを行いました。すると、結果は見事合格。あいちゃんの輸血に合うということですぐにユキの血をもらい、輸血。あいちゃんは一命を取り留めることができました。保護犬が別の保護犬の命を救ったのです。
スタッフはあらためて思い返しました。「あいちゃんを保護してから一度も楽しそうな顔を見ていない」ということを。そして、繁殖犬という犬生を強いられ、死の淵に立つまでボロボロに扱われてきたことを思うと、胸がはりさけんばかりの思いになりました。
「人間に愛されて何の不安もなく日々を生きるワンコがいる一方、誰からも愛されずに、ただただ肉体を酷使されて死んでいくワンコもいる。この命の違いはなんだろうか」
必死に「生きよう」とするあいちゃんを前に、スタッフはせめて自分だけは後者のようなワンコに寄り添い続うことを胸に刻みました。
わんにゃんレスキューはぴねす
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