診察時間外の夜間や日曜・祝日にも対応している動物病院があります。そうした病院には、比較的新しく開業したところが多いように感じます。なぜなのでしょうか。
個人経営の動物病院が、開業後どのような経過をたどるのかを考えると、その理由が見えてきます。
開業直後は時間外診療に対応しやすい
獣医師として勤務経験を積み、自分の治療方針に基づいて診療したいと考え、動物病院を開業する人がいます。
しかし、開業当初は、「飼い主さんは来てくれるだろうか」「スタッフに給料を払えるだろうか」「借金を返していけるだろうか」といった不安があります。
日中の診療がまだ忙しくなく、獣医師本人も比較的若く体力があるため、カルテ(飼い主さん)を増やす目的で、夜間や休日の診察を引き受けることがあります。
もちろん、経営上の理由だけでなく、「困っている飼い主さんや動物を助けたい」という思いがあるからです。
患者が増えると対応が難しくなる
病院が軌道に乗り、カルテが増えると、日中の診療だけでも忙しくなります。
獣医師ひとりでは診療が回らなくなり、勤務医を募集する病院もありますが、採用は簡単ではありません。
日中に多くの診察をこなしながら、夜間や休日にも対応し続ければ、心身への負担は大きくなります。そのため、開業当初は行っていた時間外診療を、途中で取りやめる病院もあります。
24時間対応する難しさ
昭和から平成にかけて開業した動物病院の多くは、獣医師ひとりが診療を担う個人経営です。
獣医師にも、睡眠や食事、家族と過ごす時間や休日が必要です。時間外診療は、そうした時間を削って行うことになります。
以前、人間の病院で、入院患者を担当する医師が休日に山へ出かけたところ、患者さんから「自分が入院しているのに遊びに行くとは何事だ」と怒られた、という話を聞きました。
担当医は入院中の患者さんを診療しますが、医師にも休日や、心身を休める時間は必要です。休む場合には、代わりの医師が、引継ぎをされているはずです。
令和に入ってから特に、多くの動物病院では、夜間は院内が無人になりますが、ペットの入院時に、そのことに不安を感じられる飼い主さんがいます。しかし、夜間も獣医師やスタッフを常駐させるには、人員と人件費が必要です。その費用は、診療費や入院費にも反映されます。
個人の動物病院では、病院建物の2階や隣が自宅であることが多く、院長が夜間に何度も入院中の動物を確認するでしょう。以前は、大きな動物病院では、勤務医が宿直室で泊まり込んで入院管理を行う場合もありました。しかし現在は、獣医師個人の無理によって24時間に近い対応を維持することを、当然と考える時代ではなくなっています。
当院では、かかりつけの飼い主さんには、私が病院の近くにいれば時間外に対応することがあります。毎日の点滴が必要な場合は、休診日に来院していただくこともあります。
ただし、学会などで遠方へ出かけているときには診察できません。いつでも必ず対応できるわけではありません。
時間外診療をやめた獣医師
先日、開業して約20年になる獣医師の友人Aと、この話をしました。
Aも開業当初は、カルテ数を増やしたいという理由と、困っている人を助けたいという思いから、時間外診療を受けていたそうです。
しかし、私生活を削って診察しても、受診した飼い主さんがその後Aの病院をかかりつけにするとは限りませんでした。普段は別の病院へ通い、困ったときだけ時間外に利用する人も多かったため、Aは時間外診療をやめました。
現在、Aの病院には、長年通い続けている飼い主さんがおられます。飼っていたペットが亡くなり、次の新しいペットを迎えた後もまた、Aの病院へ通う方も何人もおられるそうです。
休日にペットの調子が悪くなっても、「A先生に診てもらいたいので、翌朝の診療時間まで待ちます」「先生も人間だから、休診日にはきちんと休んでくださいね」と言ってくれる方もおられるといいます。
もちろん、すぐに受診しなければ命に関わる症状もあります。一方で、翌朝の診療でも間に合う場合もあります。飼い主さん自身が緊急性を判断するのは難しいこともあるでしょう。
それでも、獣医師と飼い主さんの間にこのような信頼関係が築かれていることは、素晴らしいと思います。
私も、一つひとつの症例に誠実に向き合いながら、そのような関係を築いていきたいと考えています。
緊急か迷ったときの相談先
人が夜間や休日に急に具合が悪くなり、今すぐ受診すべきか迷ったときには、「救急安心センター事業(#7119)」へ電話で相談できます。利用できる地域や対応時間は自治体によって異なります。
動物についても、24時間365日いつでも全国どこからでも電話で獣医師に相談できる「アニクリ24」というところがあります。かかりつけの動物病院に時間外に電話をすると、この「アニクリ24」さんに繋がるように契約されている動物病院も多いです。また、一部のペット保険では、契約者向けに24時間、獣医師電話相談が無料で付帯しています。
夜間や休日にペットの具合が悪くなり、緊急性を判断できないときには、こうした相談先を利用するのもひとつの方法です。
◆小宮 みぎわ 獣医師/滋賀県近江八幡市「キャットクリニック ~犬も診ます~」代表。2003年より動物病院勤務。治療が困難な病気、慢性の病気などに対して、漢方治療や分子栄養学を取り入れた治療が有効な症例を経験し、これらの治療を積極的に行うため2019年4月に開院。慢性病のひとつである循環器病に関して、学会認定医を取得。