「大阪の某ギャラリーでCanonのカメラを持ち帰った方へ。
カメラはあげます。
その中にはパーキンソン病の父が震える手で97の祖父の日々の生活を撮ってきた写真が多数入っています。
警察に落し物としてSDカードを届けてください。
お願いいたします」
OSORAのMICHIKOさん(@OSORAnoYOME)がお父様に起こったアクシデントの内容をX(旧Twitter)に11月15日に投稿。そのときの状況について詳しく聞きました。
約30年間パーキンソン病と闘いながら似顔絵を描いている似顔絵師であるMICHIKOさんのお父様。アクシデントは、年に1回大阪のギャラリーで開催している個展で起きました。
ギャラリーで来場してくださった方とお父様が話している間に、カメラが失くなっていたとのこと。97歳の祖父の姿を少しでも残しておこうと震える手でシャッターを切り続けており、そのデータがすべてSDカードに保存されたままだったのです。
この悲しい盗難は450万人もの目に触れ、たくさんのコメントが寄せられています。
「どうかカードだけでも返ってきますように…」
「思い出が1日でも早く戻る事を願っています」
「とっても大事なSDカードじゃないですか どこのどなたか知りませんが、絶対に返してください」
「人の物を盗むなんて許せない。そんな事したって、その先は悪い事起きますよ!」
「喪失感が痛い程わかります。ましてや肉親の大事な日常となれば尚更…」
「私の父もパーキンソンと闘っています。どれだけの想いで、苦労して撮り溜めた写真かと想像すると本当にお手元に戻って欲しいです」
「出来るならばカメラごとで神様お願いします!」
またカメラの型番などがわからなかったのですが、カメラを構えるお父様の写真からカメラやレンズの機種を推測してくれるXユーザーも現れました。
現在は警察署に紛失届を出し、盗難の可能性があると相談。お父様も「大事なカメラを肌身離さず持っていればよかった」と悔しい思いを吐露。あまりの悲しみぶりに、お父様のリクエストである赤いカメラをMICHIKOさんはプレゼントしたそうです。
広島県山県郡安芸太田町にある「恐羅漢スノーパーク」に嫁いでいるMICHIKOさん。Xへの投稿は「スキー場を盛り上げたい」という思いからスタートしており、今回の反響にびっくりされつつも、寄り添う温かなコメントばかりが届いたことにホッとされたそうです。お話を伺いました。
親父の寂しそうな横顔が胸にきました
――お話を聞いた瞬間はどのような気持ちに?
私としては強盗や物取りに出くわした訳ではないので「そっと無くなっただけで良かったかな」という思いでした。が、親父の寂しそうな横顔は胸にきました。
――被害に遭った日から、投稿日まで少しお日にちがあいていました。
個展があるのは知っていましたが、私の仕事の都合もつかず、丁度嫁ぎ先がスキー場とは別の事業を立ち上げたばかりでバタバタしており、父の様子を見に行くのに間があいてしまいました。私の家から実家までは車で1時間半。また、子どもが4人おり、1人はまだ1歳になりたてホヤホヤな為、時間の調整が難しいのです。カメラを紛失してから私が知るまで間があいたのは、忙しい私への父なりの思いやりでもあるかと思います。
――お父様は昔から写真を撮ることがお好きで?
親父は昔から常にカメラを持ってる人でした。思春期の頃はカメラを向ける親父が実は大嫌いでした…反抗期ですね。思い出アルバムは数え切れないほどあります。とにかく、どこに行くにもカメラ片手でしたね。
――パーキンソン病の闘病も続いてらっしゃると。
薬を飲んでいないと手足が震え、顔の筋肉も強ばりますし、声も出にくいです。そのため今回の件を聞くときも、元々吃音もあり声もカスカスだったので状況を把握するのが難しかったです。
また、字はもちろん本人も何を書いたのか分からないくらいにミミズです。箸も薬が効いていないと難しいですし、箸で掴めても、それを口に持っていく事が困難だったりします。薬を飲んでも完璧に震えが収まるわけでもないですし大変でしょうが…。付き合っていくしかないので、こちらものんびり向き合ってます。
――そういった中で、97歳の自分のお父さんを撮影し続けておられるのですね。宝物でもある写真データ、戻ってきてほしいです。カメラの型番などはお分かりに?
話を聞いて以来、まだ父の元へ行けていないので正確には確認できていません。
――MICHIKOさんがプレゼントした新しい赤カメラもとてもよくお似合いです。
実はカメラはもう1台あるのですが、シャッターがうまく作動しない時があるそうです。「カメラ買ってあげるよ」と言ったら「もう1台があるけぇ……」とは言いましたが、なんとなく心機一転の方がいいんじゃないかと思いまして。X内でも「同じCanonのKissシリーズが良いのでは」とのアドバイスもありましたので私の方で赤いカメラで、同じCanonのKissを購入しました。
――何か防犯対策は?
エアタグを購入しました。が、また盗られた場合エアタグなんてすぐに引きちぎって捨てるだろうな…とも思っています。さて、どうしましょうかね…。
――少し時間が経ちましたが、現在の心境や感想をお聞かせください。
親父はSNSってのがイマイチ理解出来ていないので、よく言う「万バズ」と言っても分からないでしょう笑。カメラもSDも戻ってこないのは分かっています。日も経っていますし。もし、見つかったらそれは年末ジャンボが当たるくらいに運を使い切る勢いだと思います。
ただ、誰かのものを盗んだことがある人へ、これから手をつけようとしてる人へのメッセージだったんじゃないかと。そんな気持ちもあって投稿しました。冬になると、スキー場では板の盗難が近年多発してるんです。冬シーズン前というのもあり、そんな気持ちもあったと思います。
◇ ◇
MICHIKOさんは投稿のラスト、「持ち去ってしまった方へ」と苦言を呈しています。
「敢えて『犯人』とは書きません。持ち去ってしまった方へ。今から何かしら他人様の物に手をつけようとしている方へ。立ち止まりましょう。後ろめたい気持ちはきっと何をしてもクリアにはならんです。上書きするかのように、良い事を後で重ねても絶対に白には戻らんのです。自分の為にも、立ち止まって欲しいと思います」
Xで拡散してくれた人々に感謝の言葉も投稿し、「何か進展があれば伝えます」というMICHIKOさん。この切実な思いと願い。どうか持ち去った人に届き、大切なカメラ一式がお父様の手元に戻ることを願ってやみません。
お父様の病気についてご自身も少しずつ学ばれていったなかで、「『パーキンソン病』がどのような病気であるのか、まず知ってもらうことが大切。闘病中の方やそのご家族で「全国パーキンソン病友の会』のことをご存知でない方もいらっしゃると思います。ぜひホームページを見てもらえたら」と、MICHIKOさん。だれにでもなりうる進行性の病気です。電話医療相談などもあるので、もしもご自身、ご家族が気になる症状がある場合はもちろん、今回をきっかけにご覧になってみてはいかがでしょうか?
■全国パーキンソン病友の会HP https://jpda.jp/