自動車整備工場に棲みついた妊娠中のサビ猫 保護後、4匹を出産した母猫に猫エイズ陽性の悲報

松田 義人 松田 義人

2020年の春、神奈川県川崎市の保護猫団体、一般社団法人LOVE & Co. (ラブ・アンド・コー以下、ラブコ)の元に1本の連絡がありました。

聞けば、自動車整備工場にサビ猫の野良猫が棲みつき、お腹が大きくなりどうも出産目前とのこと。工場という環境は、猫にとって安全とは言えないため、話を聞いたラブコスタッフは迷うことなく保護を決めました。

相談者の赴任時にはすでに棲みついていた「先輩」

自動車整備工場のある場所は山の近く。ラブコに相談を寄せてくれた人がこの工場に赴任した際、すでにすみついていた猫に「先輩」と名付け、お世話をしていました。サビ猫の先輩は、相談者さんには馴れている一方、初めて見るスタッフには警戒心丸出しで、気配を感じるとすぐに逃げていってしまいます。

こういった場面で一度保護に失敗すると、「この人たちは自分たちを捕まえようとしている」と察した猫がより警戒心が強めてしまい、さらに保護が難しくなることがままあります。つまり、こういった場面での保護までの時間を長引かせるのはデメリットしかないというわけです。

ラブコのスタッフは、以前お世話になったことのあるペットレスキューの藤原さんという方に相談しました。ペットレスキューは迷子のペットを捜索するのが仕事ですが、なかなか捕まらない猫の捕獲の相談にも乗ってくれるのだそうです。

果たして、この藤原さんの尽力により無事に先輩を保護することができました。その後、ラブコのオフィスへと連れて帰ったスタッフでしたが、当の先輩はいきなり知らない場所に連れて来られて不安そうな表情を浮かべています。極度の緊張から食事さえ摂ってくれない先輩でしたが、程なくしてようやくペースト状のおやつをなんとか食べてくれるようになりました。

ラブコの部屋の中で、自力で4匹の子猫を出産

先輩の健康状態もかなり気になるところではありますが、さらに心配なのがお腹にいる赤ちゃん猫たち。スタッフは何よりも先に先輩を動物病院へと連れていき、獣医師に出産時期を見立ててもらう計画を立てていましたが、なんと先輩はラブコの部屋の中で、4匹の子どもをいち早く出産しました。

結果的にラブコの部屋で初めて出産した猫になったわけですが、そもそも「お腹に赤ちゃん猫がいるようだ」と聞いていたことから、スタッフは事前に準備もしていました。4匹の赤ちゃん猫の世話をする先輩の姿はたくましく、強い母性そのもの。スタッフはあえて過度な世話をせず、見守ることにしました。

高熱を抱えながら子育てしていた先輩

「ミャーミャー」とかわいく鳴く乳飲子でしたが、やがて子猫たちは少しずつ体が大きくなっていき、生後1カ月もすると小さな歯が生えてきました。

「そろそろ離乳の時期かな」とスタッフが見守っていた時期、先輩の様子がどうもおかしくなりました。育児疲れなのか、とにかく元気がありません。

不安に思ったスタッフは動物病院に先輩一家を連れていき、子猫たちのワクチン接種と一緒に、先輩にも診察を受けてもらうことにしました。獣医師によれば、現在の先輩は高熱が出ており、どうも乳腺炎の疑いがあるとのこと。この乳腺炎は、避妊手術をしたほうが楽になるそうで、子猫たちの離乳に合わせて手術をすることにしました。

先輩が身を挺して、子どもたちのお世話をしていたことがわかり、その思いを受け取って「子育てが終わったら、ゆっくり休むんだよ」と先輩に声をかけるスタッフでしたが、血液検査でさらにとんでもないことが判明しました。

先輩にさらなる持病が発覚

ラブコに来た際にした検査では「陰性」と言われていたFIV(猫エイズ)が、実は陽性だったのです。どうも当初の陰性の結果は、検査期間のミスだったのではないかとのこと。

避妊手術の後、先輩の乳腺炎はだいぶ改善されましたが、熱だけが下がりません。かなりの高熱で「FIVのためかもしれない」とのことで、しばらく経過観察を続けることになりました。幸い、しばらくして先輩は平熱に戻り、元気を取り戻してくれました。また、子猫たちのウイルス検査ではいずれも陰性だったため、FIVの母猫と子猫を隔離して世話を続けることにしました。

先輩はもちろん4頭の子猫も揃って幸せをゲット

2020年夏の終わり頃、すっかり大きくなった子猫たちのうち、2匹が新しい里親さんの元へと巣立っていきました。

そして、秋が深まった頃、先輩の元にも「迎え入れたい」という里親希望者さんが現れ、見事幸せな第二の猫生をゲットすることになりました。さらに、残りの2匹の子猫もトライアル先が決定。一家バラバラの生活にはなってしまうものの、いずれも幸せへと繋ぐことができました。

ラブコで身を挺して出産と子育てをした先輩。その姿は、スタッフたちも多くの学びをもらったと言います。

スタッフは、あの逞しく優しい先輩の姿を思い出しながら、今後も多くの命を新しい里親さんへと引き継げるよう、活動への思いをさらに強く抱くのでした。

一般社団法人LOVE & Co. 
http://love-and-co.net/

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