ホームセンターへの道を間違えた→信号待ちの交差点で「猫譲渡会」ののぼり発見 君との出会いは偶然の重なりだったね 

渡辺 陽 渡辺 陽

捕獲器に入った見知らぬ猫

えのんさん(4歳・メス)は、2022年5月7日に保護された。当時3歳くらいだった。保護団体が名古屋市でTNRをしようと思っていた長毛の三毛猫がいたのだが、「やっと捕獲器に入った」と思ったら別の猫だった。それがえのんさんだった。後に里親になった愛知県在住のMさんは言う。

「この地域では見かけない猫で、最初からなでられたので、迷い猫かもしれないと届出等の確認もしたそうです。後日避妊済みであることが分かり、人との関わりがあったと考えられています」

Mさんは2匹のキジ猫と暮らしていたが、やがて2匹とも亡くなった。

「ペットロスにはほとんどならず、しばらく猫のいない生活をしようと思っていました。実家猫も入れると約30年間猫と生活していて、経験もあるし、いつかは保護猫を譲りうけて1匹でも助けてあげたいと思っていました」

引き寄せられた譲渡会

4カ月後の2023年1月7日、Mさんは亡くなった猫たちがお世話になっていた動物病院の近くにあるホームセンターに行こうとしていた。交差点を一つ間違えて曲がったため、病院近くの交差点に出た。

「一番前で信号待ちをしてる時に病院の建物が見えて、『あー、動物病院久しぶりだな。スタッフのFさん元気かな』と思いながら眺めていると、猫の譲渡会ののぼりが目に留まりました。まさに譲渡会が始まってすぐの時間帯でした」

信号が青になり、「生きている猫に触りたい。でも、会ったら絶対に迎えてしまう」、と複雑な思いになり、とりあえず病院の駐車場に車を停めたという。

「車の中で5分悩んで、『とりあえず行こう、飼わなきゃいけないわけじゃないし、お世話になった病院の方にもご挨拶したいし』と会場に入りました。この時は飼うつもりはありませんでした」

Mさんは、「早く幸せなおうちが見つかるといいね」と思いながら、会場にいた全ての猫を見た。「今日は見に来ただけだし、久しぶりに触れ合えたし、そろそろ帰ろう」。そう思った時、仲良しの病院のスタッフが来て、「いい子いた?私はこの子がいい、かわいいでしょう。絶対この子」と勧められた猫がえのんさんだった。

保護主も話に加わり背中を押された。Mさんは、えのんさんを抱っこしてみた。

「えのんさんは緊張していましたが大人しく、10分くらい抱っこさせてくれました。独特な顔の模様も珍しく、長毛種は初めてで、毛の手触りを気持ちよく感じました。そのままトライアルを申し込みました」

えのんさんは保護施設では猫嫌いで、他の猫とのトラブルも多かったそうだ。進んで仲良くなろうと近寄ることもなかったし、怒りのスイッチが入ると手が付けられなくなり、保護主を物凄い力で嚙んだこともあったという。Mさんは、その時が来たらなんとかなるだろうと思った。

初日から「一緒に寝ます」

2023年1月21日、トライアルが始まった。えのんさんを家に連れてきてもらうと、キャリーから出て部屋をおそるおそる見て回り、そのまま押し入れに籠城した。

「威嚇はまったくせず。タオル敷いてあげようと持って行くと、おとなしく敷かせてくれました。あとはほったらかし。初日ってそんなもんだとこちらも思っていました」

5時間ほど経って、「食べる?」とお近づきのちゅーるを差し出したら完食。ケージから出てきてご飯をがつがつ食べ、水を飲んでトイレに行き、終いにはMさんの足元でゴロン。「え?え?もう?受け入れるの早くない?」とMさんは思ったが、その夜お腹も撫でさせてくれたし、ブラッシングもできた。

「初日から私のベッドに乗って寝始めた時は、驚きで眠れませんでした。今も一緒に寝ています」

その後、2月11日に正式譲渡してもらったという。

保護施設での名前が「えの」。保護された日の花がエゴノキ(花言葉は壮大)だったので、そこから保護主が「えのん」と名付けたそうだ。

「響きが可愛くて、保護主さんの思いも詰まっている名前だと思うので変えたくなくて、画数をみて『ん』を足して『えのん』にしました」

強いご縁

えのんさんは、とにかく甘えん坊で、ストーカーのかまってちゃんだ。

「大人の保護猫なので慣れるまで2〜3ヶ月くらいかかると覚悟していたのですが、攻撃的でもないし、いたずらもしない優等生です。うちに来て以来赤ちゃん返りして、毎日数回私の手のひらを無心に吸います。過去は分かりませんが、あまり甘えられなかったのかもしれません」

Mさんは、えのんさんを存分に甘えさせてあげるつもりだという。

「譲渡会当日、保護主さんがいつもは出していない譲渡会ののぼりを立てるなど、いくつもの偶然が重なり、ひとつでも欠けていたら私とえのんさんは会えなかったでしょう。強いご縁というか、会うべくして会ったというか。えのんさんもそれを感じてくれて、心を開いてくれたのかなと思います」

Mさんは、「先代猫たちにしてあげられなかったことを、全てえのんさんにしてあげたい、逆に、先代猫たちにやって後悔したことはえのんさんにはしない」と思っている。

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