長年家族として過ごしたペットとの別れは本当につらく悲しいものです。親が亡くなっても涙をこらえていた人が、ペットが死んだときには号泣したという話も耳にします。
「犬は人類と最古の友」「猫は人につかず家につく」といった説がありますが、大切な時間をともに過ごしたペットの死に直面すれば、犬派・猫派を問わずペットロスになるはずです。しかし、ペットを飼う以上、いつか必ず「その死」に向き合わなければならないときがやってきます。愛するペットを失った方、ペットを大切に思う方に読んでほしい本があります。『たからものを天に返すとき』(塩田妙玄・著、ハート出版)という本です。
本書は、ロングセラー『ペットがあなたを選んだ理由』の続編で、品切れのまま電子書籍のみの状態だった『続・ペットがあなたを選んだ理由』を改題し、カバーを新装し刊行されたもの。捨てられる赤ちゃん猫、保護・捕獲と里親探しの苦労、保護施設の人間模様など、「動物の生と死」の話をまとめたノンフィクションエッセイです。こういった悲しい場面を複数紹介しながらも、ペットの「死」への向き合い方、そしてペットからの「学び」が描かれています。
著者は元ペットライターで、現在は僧侶であり心理カウンセラーでもある塩田妙玄さん。自身がペットにまつわる様々な現場で見た・感じた話をつづっています。涙なしには読み進められないページもありますが、塩田さんの経験は読む人の心を癒してくれるはずです。
ペットや動物には「過去」「未来」といった時間の概念がない
愛するペットに対し、多くの飼い主はときに大きな悩みに直面します。たとえば、ペットの闘病。猫も犬も言葉を発するわけではないので、「本当はどうしたいのか」がわからず、飼い主が惑うことはよくあります。本書では、こんな場面に対し、以下のように綴っています。
「この子はうちに来て幸せだったのか?」「この手術はしたほうがいいのか、しないほうがいいのか?」(中略)もう亡くなってしまったときよりも闘病している最中のほうが選択に迷い、決断に苦しむ場合が多いように思う。特に「手術をするか、しないか?」「うちに連れて帰るか、病院に預けるか?」のような場合は多くの飼い主が「うちの子はどっちがいいのだろう?」「うちの子にいいほうを選びたい」「うちの子は何と言っているのか?」このようなことを思う。
「どっちがいいのでしょうか?」「うちの子はどっちがいいと言っていますか?」カウンセリングの現場でこのような問いかけも少なくない。「すみません、わたしわかりません」というより「この子もわからない」のです。(中略)ペットや動物には「明日」や「昨日」、「過去」や「未来」という時間の概念がない。ということは物事のつながりや出来事の流れもなく、ただ「今」を「この瞬間」を生きているのではないだろうか。とくにペットの場合は野生動物と違い、与えられた環境の中で粛々と生きている。
私たち人間のように常に「人生は選択の連続」なのではなく、ペットの人生は「今の環境を受け止めて生きる」ことだと思う。(本書より)
その苦しみは、あなたと同じペットを愛する同胞のために
こういったことを前提にペットに向き合うべき、と本書では綴られていますが、必ず迎える「ペットの死」「悲しみ」に対し、どういった心持ちであるべきかも紹介しています。
この子のお陰でたくさんの友人ができたこと、家族の協力があったこと、いろいろな勉強ができたこと、感謝の気持ちを思い出す。また、弱っていくペットを見つめながら、人生の刹那さ諦観、悟りと呼ばれるものに私たちはふれる。そういう人生の深淵の中で人は共感や優しさを身につけていく。なぜ、わたしたちは苦しみの中から、そのようなことを身につける必要があるのだろうか?それは他者のためである、とわたしは思う。(中略)あなたの苦しみはあなたのためにあるのではなく、同じようにペットを愛する同胞のためにあるのではないか? と私は思うのだ。私たちがペットを亡くした時に、たくさんの人がしてくれたことを、今度はあなたが同胞にするために。
だから、ペットを愛する私たちの人生には、喜びと輝き、苦しさと刹那さ、両方が必要なのではないだろうか?そうして私たちの世界はつながっていく。(本書より)
「死は終わりではない。新しい関係性の始まりである」
ペットを失った際、旅立ったペットのことばかりを考え、悲しさでいっぱいになりますが、本書で紹介された「ペットとの出会いの意味」、そして「別れの苦しみの理由」は、また別の世界の扉を開き、あなたの人生に新たな気づきをもたらしてくれるはずです。そして、トンネルのように続く悲しい気持ちの先に、必ず出口があることを教えてくれ、気持ちを楽にしてくれます。
本書の最後には、こんな言葉もつづられています。
こうして(愛猫の)死後もなお、あなたと学んだことを表現することで「死は終わりではない。新しい関係性の始まりである」このことを多くの同胞に発信できたら嬉しいです。(本書より)
愛するペットとの別れを経験したことがある人にとって、本書の内容は心に響くものがあるはずです。また、今ペットと幸せな生活を送っている人は、その貴重な時間をもっと大切にしたくなるでしょう。ぜひ読んでみてほしい一冊です。