高校3年間、コロナ禍に塗りつぶされたくない!→とちおとめを生かしたソースを商品化 「思い出と友情が詰まった味です」

松田 義人 松田 義人

2019年末からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によるコロナ禍。2023年5月からは新型コロナウイルスが5類相当となり、少しずつ以前の生活を取り戻しつつあります。一方、この期間、高校生だった世代は多感な時間をとても自由とは言えない環境で過ごし卒業していったことを忘れてはいけません。

そんな中、栃木県立佐野松桜高等学校(以下、佐野松桜高校)に在校し、この春卒業した商業部の生徒たち10人は、制限のある在校中に「地元・栃木の食品を使ったソースを作ろう」と見事完成させました。ソースはイオンなどで先行採用されるなど話題となり、この春ついに量販化が決まりました。

「地元食材を使ったソースを作ってみたい」

佐野松桜高校の生徒10人は、コロナ禍の制限によって、部活動はもちろん、互いの友情を育む時間もそれほど多く持つことができず、相当な我慢を強いられながら過ごしました。商業部であることから、平常時であれば販売実習なども大いに体験できたはずですが、こういった体験の場もごく限られました。

そんな彼らに声をかけたのが「県の魅力を県外に発信する」活動を続ける合同会社e街(いーまち)佐野奉行所(以下、佐野奉行所)。同社は、地元のパパたちで構成された団体で、これまでに地元・佐野の「佐野黒から揚げ」などを考案し、地元の応援を数多く実践してきています。

佐野奉行所では、コロナ禍の3年間を過ごすことになった生徒たちに、「何かバックアップできることはないか」と声がけをしました。これに合わせて、本来は様々な販売実習などもできたはずの商業部の彼らにとって、最も有益になるものは何かと考え、「地元食材を使った、食品作りをしてみてはどうか」という提案もしました。

そこで生徒たちから上がった答えはこうでした。

「栃木・佐野にはいもフライ、焼きそば、カレー、から揚げといったソースと親和性のある名物グルメが多くあります。このことからソースを作ってみたいです」

地元・栃木の様々な食材で安心安全の無添加のソースを考案することで、地域の魅力も発信できる効果も見込めます。佐野奉行所はすぐに承諾。生徒たち10人のソース作りのバックアップに乗り出しました。

ソース作りの試行錯誤で深まっていった友情と絆

佐野奉行所では完成に先立ち、各ソースメーカーに製造の交渉を始めました。それと並行し、生徒たち10人はコロナ禍の制限がある中で、力を合わせながらソース作りに専念しました。

生徒たちにとってソース作りは試行錯誤を繰り返しでした。「地元・栃木の様々な食材を使う」というコンセプト通り、様々な野菜類にくわえ「地元名物の甘茶、椎茸などを入れたい」と考案そたものの、後の量産化の際に、工場の機械の都合でこういった素材を使うのはNG。何度もイチからやり直しを強いられました。一方、ソース作りがなければ交流が乏しかったであろう同級生同士の意見交換などもでき、その友情の絆は、次第に強くなっていきました。

結果、生徒たち10人がソースに採用することにしたのが地元のいちご・とちおとめでした。栃木の名産品の代表ですが、ソースに使うのはコストがかかります。しかし、実際に試作したソースの味は、それまで試作した10種の味とは比べものにならないほどの完成度の高さ。同時に、「地域の魅力発信」の意味でも十分な効果が期待できることから、生徒たち10人は、とちおとめを採用したソースを「自分たちのソース」として完成させました。商品名は『ソースおとめ』と名付けられました。

「塩味強めのソースは、高校生1人1人の個性と一緒」

このソースは隣県・埼玉にある高橋ソースが製造を請け負ってくれることになりました。量産化に先立ち、「高校生が作ったソース」に注目したイオンが、前述の名物「佐野黒から揚げ」に採用するなど、少しずつ地元の人たちの間で話題になり、この5月についに量産化が決定しました。

実際の味は様々な野菜やスパイスの味が絡みあいつつ、塩味強めのパンチあるもの。この個性的なソースの味わいを、とちおとめが丸くまとめる印象。一口食べると忘れることができない味わいでもあります。

このソース作りのバックアップをした、佐野奉行所の堀川悦郎さんはこう話します。

「ソース単体では少し塩味が強いですが、それはソースを作った高校生1人1人の個性と一緒だと思っています。部活などで集まれば、お互いを助け合うことで、お互いの魅力を引き立たせ合う存在になるのと同じで、このソースは料理にかけて食べることで、おいしさが格段に引き立ちます。今後は佐野市だけでなく栃木県全体のPRもできるようなお土産品として多くの方々にご賞味いただきたいと思っています」(佐野奉行所・堀川悦朗さん)

「高校生活の思い出が全て詰まったソースです」 

また、このソースを同級生と作った卒業生数名にも聞きました。

「高校時代、部活などもできなかった中で、ソース考案にいろんな人たちが力を貸してくださいました。この経験で思ったことは、『諦めない』ことでした。完成したことで、みんなと達成感を得られたことが良かったです」(卒業生)

「『将来やりたいこと』を見つけることができました。当初は『将来、情報関係の仕事に就きたい』と考えていましたが、みんなとソースを完成させたことで『商品開発』も好きだという実感を得られました」(卒業生)

「このソースは、僕たちの高校生活の思い出が全て詰まったソースです。ぜひ多くの人に食べていただければ嬉しいです」(卒業生)

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