ある日のこと、動物愛護センターに2頭のメスの子犬が収容されました。透き通るような真っ白の毛の元野犬です。2頭はお互いを信頼している様子で体を寄せ合いながら、こちらをジッと見つめていました。
まだ小さいワンコです。衰弱している可能性もあるため、一刻も早い保護と健康面での診断が必要と思われました。
保護犬の保護・譲渡活動を行うピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)のスタッフは、この2頭を他の何頭かのワンコと一緒に引き出すことにし、同団体の施設である神石高原シェルターの検疫犬舎へ連れて帰ることにしました。
鼻黒を「パスコ」、鼻ピンクを「ウェナッチ」と命名
ピースワンコが保護したワンコは一定期間検疫犬舎で過ごし、感染病などを持っていないかなどをチェックします。また、一頭ごとの健康診断ももちろん行います。
この検疫犬舎に来た真っ白な毛の元野犬に対しスタッフは「鼻が黒い」のほうのワンコを「パスコ」、「鼻がピンク色」のほうのワンコを「ウェナッチ」と名付けました。
しかし、どうも人間を警戒している様子で、伏目がちで、なかなか目を合わせてくれません。
ボールを咥えるパスコと、警戒心強めのウェナッチ
そんなパスコとウェナッチでしたが、検疫犬舎で2週間の隔離期間を終えることができました。ここからは他のワンコたちと一緒に人馴れトレーニングを始めます。
相変わらずパスコとウェナッチは人間に対する警戒心が強く、端っこのほうに2頭一緒に寄り添い近寄ってきてくれません。
スタッフがここで無理に接するような態度を取れば、きっとパスコとウェナッチはより強い警戒心を抱いてしまうかもしれません。そのため、スタッフは、まずパスコとウェナッチに対しボールを転がして様子を見ることにしました。
しかし、反応してくれません。「ボールは遊ぶもの」という認識がないことに加え、「人間が投げてきたもの(ボール)」ということで、ここでもまた警戒するような表情を浮かべていました。
しかし、スタッフは笑顔で優しい声をかけながら諦めずに何度かボールを転がします。何投かこれを繰り返していたところ、なんとパスコのほうが、自分の体まで転がってきたボールの匂いを嗅いだ後、そのまま口に咥えてくれました。
そんなパスコを「すごいねー」と褒めてあげるスタッフでしたが、一方のウェナッチはと言うと……パスコがボールに触る様子を無表情で見つめながらも、依然として自ら動こうとはしませんでした。
おやつを食べたウェナッチ、抱っこさせてくれたパスコ
今度はおやつを使ってみることにしました。おやつをパスコとウェナッチの前に差し出してみました。2頭とも一瞬「これは……!?」という表情を浮かべた後、今度はウェナッチのほうがすぐに食いついてくれました。
一方、パスコは、ボールを咥えることはできたのに、おやつの前ではなんだか緊張気味で、ウェナッチがおやつを食べる様子を後方からうかがっています。
スタッフが、パスコの口元までおやつを持っていくと、匂いを嗅いだ後、少しずつ食べることができました。
人馴れトレーニングはまだ始まったばかり
なんとかして2頭とも人間の手からおやつを食べられるようになったので、今度はスタッフから少しずつパスコとウェナッチとの距離を縮めてみることにしました。
おやつの匂いが残った指一本で、ウェナッチの背中に触れてみましたが、ウェナッチは即座に逃げ出し、また壁の端っこのほうに行って固まってしまいました。
その一方、パスコが後ろを向いた瞬間を狙い、スタッフがその体を抱き上げてみたところ、緊張する表情を浮かべながらも、吠えたり噛んだりすることなく抱っこさせてくれました。
その後、パスコとウェナッチはさらなるトレーニングを経て、さらに人間に馴れていきました。その結果、ウェナッチ尾は新しい里親さんに迎えられることとなり、ピースワンコを卒業していきました。パスコはピースワンコの湘南譲渡センターで現在も里親さんを募集中です。
元野犬の多くは、人間に馴れておらずワンコ同士のコミュニケーションには長けている一方、人間に対して怖がりな性格のワンコが多いものです。しかし、ピースワンコのスタッフは知っています。どんなワンコでも愛情を持って接すれば、いつか心を開いてくれ、新たな犬生をスタートできることを。
ピースワンコ・ジャパン
https://peace-wanko.jp/