坂本龍一さんと作ったカクテル ラストエンペラーの名曲「Rain」から生まれた 銀座のバーテンダー「坂本さんは雨という言葉が好きだった」 

堀内 達成 堀内 達成

 3月28日に亡くなった音楽家・坂本龍一さん(享年71)に贈られたカクテルがある。その名は「M30レイン」。生み出したのは業界では知らぬ人はいない、伝説のバーテンダー上田和男さん(78)。なぜこのカクテルを手がけたのか、上田さんが営むバー「銀座TENDER(テンダー)」の扉を開けた。

3段振り「ハードシェイク」考案

 「こんにちは」。白いタキシードに身を包んだ上田さんが出迎えてくれた。2年前に移転した店内は板壁にじゅうたんが引かれ、シックにまとめられている。

 カクテルを作る際、シェイカーは2段振りすることが常識だった当時、3段振りする「ハードシェイク」を考案したのが上田さんだ。プロフェッショナル・バーテンダーズ機構(PBO)の初代チェアマンを務め、2015年に黄綬褒章も受けた。 

アカデミー賞授賞式の1週間前に

 上田さんがM30レインをつくったのは1988年。当時、常連客に連れられ、坂本龍一さんも数回、来店していたという。この年、坂本さんは映画「ラストエンペラー」の音楽で、日本人初の米アカデミー作曲賞を受賞。そのタイミングで、常連客から上田さんに「坂本さんのオリジナルカクテルをつくってくれないか?」と依頼を受けた。授賞式のために渡米する1週間ほど前、開店前に坂本さんと会話をしながら創作した。

ラストエンペラーの30番目「1番のお気に入り」

 映画の挿入歌は計44曲で、そのうち坂本さんは「30番目の『Rain(雨)』が1番お気に入り」と話したという。この曲は清朝最後の皇帝、愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ)との別れを決意した第2皇妃が「I want a divorce(離婚してください)」と告げて雨の中、立ち去るシーンに流れる。メロディーからは緊張感とともに高揚感も伝わってくる。

 さらに、坂本さんが上田さんの別のオリジナルカクテルでウオッカとツルコケモモのリキュールなどを使った「M45すばる」が好みだったこともあり、このカクテルと、雨や涙をテーマにその場で作り上げたという。

雨や涙を連想させる美しい水色

 M30レインはウォッカベースで、度数は30度のやや辛口。雨や涙を連想させる水色が美しい。グレープフルーツのリキュールを少し使うことでさっぱりした味わいにかすかな苦みを生んでいる。口に含むとさわやかさが広がる。

 上田さんは「口切れがいいでしょ」と解説しつつ、「坂本さんは雨という言葉が好きなようで『娘にも美雨(みう)と名付けた』と聞きました」と教えてくれた。Mはmusic number(ミュージック ナンバー)を意味する。

 M30レインは今、スタンダードと言えるほど知名度のあるカクテルになっており、各地のバーで味わえる。上田さんは「坂本さんのご活躍とともにこのカクテルも広がっていった。感謝している。まだお若かったのに残念。M30を飲みながら、坂本さんをしのんでもらえれば」と話していた。

 銀座TENDERは東京都中央区銀座6丁目5-16三楽ビル9階(☎03・3571・8343)

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース