お金がないから、弁護士に頼めない→「本人訴訟」するしかないのか? “支援サービス”増えるも弁護士警鐘「安易に行うのは危険」

北村 守康 北村 守康

ChatGPTが話題の昨今、ITを駆使して法律相談や法律事務をサービスとして提供する一般企業が現れ、「非弁行為(*)ではないか」と法曹界をざわつかせている。弁護士に依頼せず、自ら裁判を行う「本人訴訟」(民事裁判において)を後押しするものだ。弁護士資格を持たない法人が安易に本人訴訟を勧めることで「利用者が返って不利益を被るのでは」と心配の声も聞こえる。

*非弁行為…弁護士でない者が報酬目的で弁護士のみに認められている行為をすることを指し、弁護士法72条によって禁じられている。ただし簡易裁判所における140万円以下の訴訟事案については認定司法書士も弁護士と同等に取り扱える。

一般企業による「本人訴訟」支援サービス提供の背景には「弁護士費用が高く、依頼したいが経済的に難しい」そんな理由がある。経済的余裕のない人は本人訴訟をするしかないのか、法律知識のないずぶの素人でも本人訴訟を遂行できるのか、あさがお法律事務所(兵庫県西宮市)の代表弁護士、岡田晃朝さん(49)に話を聞いた。

「否定はしませんが、本人訴訟を安易に選ぶのは危険です。仕事や家事などの合間に法律や裁判のことを一から学ぶのは大変で、日々の生活に支障をきたす方もおられるでしょう。仮にやり切ったとして、ある程度納得いく判決が出たとしても、専門家から見ると弁護士を雇っていればもっと良い条件にできた、実際そういうことは多いと考えます。第一それに費やした多大な時間は戻ってきません。例え話としてよくするのですが、病気したときはお医者さんに診てもらいますよね。決して医療を学びながら自分で治療したり、医師でない第三者に指南を求めたりしませんよね。こと法律問題になると自分で何とかできると思うんでしょうね」

法曹界が本人訴訟に否定的な訳ではない。本人訴訟は民事訴訟法で認められた国民の権利であり、それを有償で支援する弁護士、認定司法書士もいる。裁判の代理人として依頼した場合に比べ、費用は抑えられるものの、上記した企業の支援サービスの費用とは比較にならない。では、先立つものがない人はどうすればいいのか?

「『お金がないので本人訴訟しかない』その考えは誤りです。まずは弁護士事務所に相談してみてください。思いもよらぬアドバイスや解決方法を提案してくれるかも知れません」

弁護士に相談したらその弁護士に依頼しなければならないと考え、弁護士相談を躊躇する人も少なくない。弁護士費用はなぜ高いのか? 受け取る賠償金を弁護士費用が上回ることはないのか?

「弁護士事務所に法律相談したからといって依頼する必要はありません。相談と依頼は別ものです。私も弁護士費用が高いと感じますが、必要経費を考えるとどうしても……。受け取る賠償金が弁護士依頼料を上回る場合や、またいくら勝てる見込みの裁判でも、相手に支払能力がないなど回収できないと判断した場合は事前にお伝えし、裁判しないよう勧めることもあります。商売だからと言って、相談者が不利益になるようなことはしません」

弁護士費用は法人・個人と区別することがないので個人で弁護士を雇うとなると、どうしても高く感じてしまう。かといって弁護士が国家資格をかざしてぼろ儲けしているかと言えば、そうでもない。過去の判例を調べ、訴状など文書作成に多くの労力と時間を費やしオーダーメイドな“作品”を完成させる。そう考えると広告制作をデザイナーやコピ―ライターに頼む費用と理屈は同じで、極端に高い訳でもない。事務所の家賃や事務員の給与に加え、弁護士会に毎月納める会費、諸々の経費、時に裁判の相手方から逆恨みされるなど仕事内容を知れば知るほどステレオタイプな弁護士のイメージは払しょくされる。

 弁護士事務所によって、費用は異なるので意外と安価に依頼できるところもある。企業の顧問費用も世間が思っているほど高くない。月額5万~1万円と零細企業でも何とかなる額だ。顧問契約すると電話で法律相談ができる事務所もある。法律相談は基本予約を入れて対談になるので、気軽に電話相談ができるのは何かと便利だ。

また弁護士費用を補償してくれる弁護士保険というものや、費用を立て替えてくれる法テラスという国の機関もあって、探せば経済的問題を解消する手立てはいくつもある。先立つものがないから本人訴訟しかないと考えるは早合点。まずは弁護士事務所へ相談するのが賢明だ。本人訴訟をすれば膨大な時間が人生から奪われるばかりでなく身心ともに疲れ果ててしまう。「時は金なり」この言葉の意味を噛みしめたい。

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