演者でありプロデューサー MEGUMIが映画「零落」で精神的にも肉体的にも削られた日々 「どうやって闇落ちしたところから乗り越えていくか」

磯部 正和 磯部 正和

近年、俳優として多くの作品で強い印象を残しているMEGUMI。竹中直人が監督を務める最新作映画『零落』(2023年3月17日よりテアトル新宿ほか全国ロードショー)では、斎藤工演じる人気漫画家・深澤薫の妻であり担当編集だった町田のぞみに扮する。本作では演者としてだけではなく、プロデューサーとしても作品に参加しているが、その経緯は酔った勢いだったという――。

落ち込んだときは矢沢永吉や安藤忠雄の動画

『ソラニン』や『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』などの人気漫画家・浅野いにおの同名漫画を、俳優であり映画監督の竹中直人が実写映画化した本作。MEGUMIは“売れなくなった”夫である漫画家に深い愛情を持ちながらも、自分が担当する人気漫画家に肩入れしてしまい、関係性が冷え切ってしまう夫婦をリアルに演じた。

劇中、斎藤工演じる深澤は、長きに渡って連載していた漫画が終了し、次回作のアイデアを考えていたが、なかなかうまくまとまらず、周囲からも“売れなくなった”という視線を向けられ、心がかき乱されていく。

「女性って若いころに描いていた自分でなくなったとしても、深く傷つかずに『まあいいか』と思えるタイプの人が多いと思うのですが、男性はそのことに深く傷ついてしまう。その両極端な部分がこの映画には描かれていると思います。しかものぞみは深澤をクリエイターとして尊敬しているから、何とかスランプから脱してもらおうと明るく振る舞うのですが、そんなのぞみの愛をまったく気づいていない。歯車がどんどんかみ合わなくなってくさまは、なかなか辛いものがありますよね」。

MEGUMIは「私自身も、相手がグッと深く落ちてしまったら、のぞみと同じように笑って『おかえり』と言って普通に生活していくと思います」と語ると「自分も疲れたり落ち込んだときとか、お米を研いだり、みそ汁を作ったりすることで、少しずつ心が整っていくことがあります。あまり闇落ちしてしまった人に寄り添い過ぎてしまうと、相手のためにもならないですからね」と対処法を述べる。

「いまは95歳とか100歳まで生きる時代」と語ったMEGUMI。「長い人生のなかで、人間誰しも抜け出せないぐらいに闇落ちしてしまうことはあると思う。そのなかで、この映画ではいろいろなことがとっ散らかってしまうのですが『それでもいいよ』と寄り添ってくれる作品なのかなと思うんです」と解釈を述べると「私が落ち込んだときは矢沢永吉さんや安藤忠雄さんなど元気な先輩方のYouTubeを見るんです」と語る。

MEGUMIは「いまってなんとなくテンションが低い人が多いじゃないですか。でも矢沢さんや安藤さんのインタビューなどを聞いていると、本当に前のめりのエネルギーが充満していますよね。私もああいう風になりたい」と元気になるという。

年配の女性も活躍できるような作品を

この言葉通り、MEGUMIは俳優業以外にも、さまざまな活動を行っている。本作には演者としてだけではなく、プロデューサーとしても参加している。

「一昨年竹中さんと連続ドラマでご一緒したとき、飲みに行ったんです。そのときこの原作本を見せてくださって『これを撮りたいんだよね』とめちゃくちゃ熱く語っていたんです。竹中さんと言えばレジェンドじゃないですか。そんな方がとてもピュアな思いで話されている姿に感激して、酔った勢いもあって『私がお金を集めます!』って言ってしまったんです」。

MEGUMIと言えば、本作以外でもプロデュース業を行っているが、そこには日本の映像界への提言も含まれているという。「やっぱりいまの邦画って若い人向けの作品が多いじゃないですか。女優さんは年齢を重ねると、役柄が狭まってしまう。でも海外では年配の女性が輝いている作品も多いので、プロデューサーとして、そういう作品を作っていけたらいいなという思いがあります」。

化け物みたいになってしまったかも

女優業とプロデュース業という二足のわらじは「とにかく大変です」と苦笑いを浮かべるMEGUMI。「やっぱりプロデューサーの目線って現場でも高い位置にあるというか、全体を見なければいけないので、グッと闇にフォーカスするようなお芝居の前日は、プロデュース業はお休みさせていただくという配慮はしていただきました」と語ると「なかなか精神的にも肉体的にも削られる日々でした」と撮影を振り返っていた。

本作で長編映画のプロデュースをしてみて「改めて映画を撮れるって奇跡的なことなんだな」としみじみ語る。この映画も何度もとん挫し、もう無理なんじゃないかというところまで追い込まれたこともあったという。

「大人がみんないいものを作ろうとぶつかり合うわけで、もめごともたくさんあります。でもそうやって試行錯誤しながらモノを作るというのは、とてもいい経験でした。自分自身もどんどん強くなっていったような、もう化け物みたいになってしまったかも(笑)。」

 竹中監督をはじめ、スタッフ・キャストの熱い思いで完成した本作。MEGUMIは「大人の思春期って、ある意味でかなりきついものはあるのですが、次に進むうえでは必要な時期なのかも……と思えるような作品。長い人生のなかで、どうやって闇落ちしたところから乗り越えていくのか、この映画は一つの参考になるんじゃないかと思っているんです」と作品に込めた思いを語ってくれた。

映画『零落』は3月17日よりテアトル新宿ほか全国ロードショー

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