「ルフィ」を名乗り、全国で相次いだ連続強盗事件で指示役とみられる渡辺優樹(38)、小島智信(45)、今村磨人(38)、藤田聖也容疑者(38)がフィリピンの収容所から送還され、特殊詐欺事件にからむ窃盗容疑で逮捕された。警察庁の露木康浩長官は4人逮捕を受け、「全容解明に向けた捜査を強力に推進していきたい」と宣言した。強盗事件を巡っては被害者が殺害された狛江市での事件もあり、殺害実行犯と指示役は罪を問う上でどのような違いがあるのか。かつてアイドルとして歌手デビューも果たした平松まゆき弁護士に尋ねた。
Q 今回の4人は特殊詐欺事件に絡む窃盗容疑で逮捕となりましたよね?狛江市で起きた強盗殺人事件への関与も疑われていますが、別件逮捕ということでしょうか。
A 別件逮捕については古くから違法であるとの説も多くあります。しかし被疑者の身柄拘束は最大23日間という厳格なルールがあります。この23日間のうちに起訴するかどうかを決定しなければなりません。そこで、おそらくですが、特殊詐欺事件を個別に事件化し、1つ1つ再逮捕を繰り返して身体拘束期間を延ばしながら、その間に可能な限り強盗殺人事件の捜査も行うものと思われます。もちろん特殊詐欺の被疑事実で逮捕しておきながら、強盗殺人の方しか調べないとなると違法性を帯びますが。
Q どちらの犯罪も限られた時間内で取り調べるということですね。それにしても実行犯でない人物をどうやって罪に問うのですか?
A たとえばAがボスでBがその手下だとします。AとBは殺人を共謀し、共謀どおりBが実行犯として被害者を殺害しました。この場合、Aは共謀しかしておりませんが、AとB両方に殺人罪が成立します。つまりAは、教唆犯(そそのかし)でも幇助犯(手伝い)でもなく、れっきとした「正犯」なのです。背後の黒幕処罰の必要や、教唆とも幇助とも言えない形態による関与の存在を重視するからであり、判例は一貫して共謀の共犯関係を共同正犯として肯定しています。
Q なるほど。しかし例えばAとBは強盗は共謀したけど、AはBが被害者を死亡させるとまでは思っていなかった場合でも同じように正犯として罪に問えるのですか?
A 判例は、強盗を共謀した共犯者のうちの一人が強盗の機会において、被害者に傷害を与えた場合は、その共犯者全員につき強盗致傷罪が成立し、被害者が死亡した場合は、その共犯者全員につき強盗致死罪が成立するとしています。
Q 今回は「共謀」の有無を立証するのが困難とも言われていますね?「共謀」の有無はどのように証拠化していくのですか?
A 「共謀」の要素としては、明示・黙示の意思連絡、犯行態様、経緯等を総合考慮するとされています。ですから連日報道されているようなテレグラムやその他のSNSを使った連絡履歴、メモ類等が重要な証拠となることは間違いありません。また、Aに「正犯意思」が存在しなければならないとされており、これも動機、人的関係、利益帰属態様等を総合的に判断するとされています。重要なのはお金の流れです。お金が誰のもとに一番流れていったのかが分かれば、おのずと誰がボスかも見えてきます。いずれにせよ容易な捜査ではなさそうですが、日本の捜査機関の腕の見せ所であるとも言えます。期待しています。
Q 「闇バイト」に気軽に応募する若い人に言いたいことはありますか?
A 強盗が人を殺害したり、人を死亡させた場合には、死刑か無期懲役しかありません。私も過去に特殊詐欺の受け子の弁護をしたことがありますが、その若者は、「バイト感覚だった」と弁明していました。しかし今回の一連の犯罪にみるように、黒幕からの指示は特殊詐欺から強盗へと変化してきています。「闇バイト」という言葉からはかけはなれた極めて重い責任を問われるということを十分理解してほしいと思います。